似非の正義2
- カテゴリ:日記
- 2026/05/10 21:46:03
男が立ち上がり、俺の肩を掴もうとしたその時、奴の懐から一通の封筒が滑り落ちた。
湿ったアスファルトの上で、中身が露わになる。
それは、奴が先ほどまで「不浄な悪」と断じていた組織の、裏印が入った分厚い札束だった。
「これは……違う、これは調査の、その……」
大上段に構えていた男の声が、一瞬で裏返る。
さっきまでの「崇高な眼差し」はどこへ行った。
今、そこにいるのは、雨に濡れたネズミのように震え、足元に散らばった「自分の値段」を必死にかき集める小悪党だ。
さっきまでの「崇高な眼差し」はどこへ行った。
今、そこにいるのは、雨に濡れたネズミのように震え、足元に散らばった「自分の値段」を必死にかき集める小悪党だ。
「似非(えせ)の正義ってのは、高く売れるらしいな」
俺は地面に膝をつく男を見下ろし、吐き捨てるように言った。
奴が振りかざしていた正義の太刀は、内側から腐りきった竹光だったわけだ。
皮肉なもんだ。一番熱心に正義を説く奴が、一番手近なところで魂を売り払っている。
奴が振りかざしていた正義の太刀は、内側から腐りきった竹光だったわけだ。
皮肉なもんだ。一番熱心に正義を説く奴が、一番手近なところで魂を売り払っている。
男は何も言い返せず、泥のついた札束をコートにねじ込む。
その背中は、先ほどまでの演説よりもずっと雄弁に、この街の真実を語っていた。
その背中は、先ほどまでの演説よりもずっと雄弁に、この街の真実を語っていた。
「安心しろ。俺は告発なんて柄じゃない。
だが、その金で飲む酒は、さぞかし不味いだろうな」
だが、その金で飲む酒は、さぞかし不味いだろうな」
俺は男の脇を通り過ぎ、闇の奥へと消えていく。
背後で、男が嗚咽(おえつ)とも言い訳ともつかない声を漏らしていたが、雨音がすぐにそれをかき消した。
背後で、男が嗚咽(おえつ)とも言い訳ともつかない声を漏らしていたが、雨音がすぐにそれをかき消した。
正義を振りかぶる奴ほど、足元が見えていない。
この街の夜は、そうやって暴かれた「嘘」を飲み込んで、さらに深く、黒くなっていく
この街の夜は、そうやって暴かれた「嘘」を飲み込んで、さらに深く、黒くなっていく
男は、拾い集めた札束を抱きしめるようにして、夜の街へ逃げ出した。
だが、一度剥がれ落ちた「正義」のメッキは、二度と元には戻らない。
だが、一度剥がれ落ちた「正義」のメッキは、二度と元には戻らない。
翌朝、街角のモニターには、昨日まで英雄のように振る舞っていた奴の顔が映し出されていた。
隠し持っていた「不浄な金」と、それ以上に醜い「裏切りの証拠」が、ネットという名の底なし沼に引きずり出されたのだ。
大上段から振り下ろしたはずの刃は、重力に従って、そのまま自分自身の脳天を割り、その地位も、名誉も、逃げ場さえも切り裂いた。
隠し持っていた「不浄な金」と、それ以上に醜い「裏切りの証拠」が、ネットという名の底なし沼に引きずり出されたのだ。
大上段から振り下ろしたはずの刃は、重力に従って、そのまま自分自身の脳天を割り、その地位も、名誉も、逃げ場さえも切り裂いた。
数日後、俺はあのバーの隅で、三面記事の片隅に目を落とす。
そこには、虚ろな目で警察車両に押し込まれる「元・正義の味方」の姿があった。
奴を称賛していた大衆は、今や誰よりも鋭い言葉の礫を投げつけている。
かつての信奉者が、最大の処刑人へと変わる。それがこの街の、残酷な自浄作用だ。
そこには、虚ろな目で警察車両に押し込まれる「元・正義の味方」の姿があった。
奴を称賛していた大衆は、今や誰よりも鋭い言葉の礫を投げつけている。
かつての信奉者が、最大の処刑人へと変わる。それがこの街の、残酷な自浄作用だ。
「……高くついたな、その正義」
俺はグラスを傾け、琥珀色の液体を喉に流し込む。
正義を振りかざした腕は、その重みに耐えきれず自ら折れた。
残ったのは、泥にまみれた紙切れと、誰の記憶にも残らない哀れな男の末路だけだ。
正義を振りかざした腕は、その重みに耐えきれず自ら折れた。
残ったのは、泥にまみれた紙切れと、誰の記憶にも残らない哀れな男の末路だけだ。
店の外では、また新しい誰かが、新しい「正義」を求めて喚き始めている。
だが俺はもう、耳を貸さない。
雨は止み、夜霧がすべてを包み隠していく。
この街の静寂だけが、唯一、嘘を吐かない。_
だが俺はもう、耳を貸さない。
雨は止み、夜霧がすべてを包み隠していく。
この街の静寂だけが、唯一、嘘を吐かない。_

























コメントありがとうございました。
正義って言葉は、本来きれいなもののはずなのに、こうして読むと、ずいぶん怖いものにも見えますね。
正しさを語っているつもりで、いつの間にか自分の足元が見えなくなっている感じがして
読んでいて少し苦くなりました。
雨の夜と、安酒と、剥がれていく正義のメッキ。
その暗さがとても印象に残りました。
最後の
「この街の静寂だけが、唯一、嘘を吐かない」
この一文、好きです。
きれいごとではないのに、妙にきれいに残る文章でした。
今日もお疲れさまでした!