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皐月の断章

五月の陽ざしは あまりに明るすぎて
窓枠に切りとられた わたしの部屋を
透きとおる 静かな水底のように沈ませる
風はときおり カーテンの裾を翻し
どこかへ わたしを連れ去ろうと誘うけれど
……ああ あなたはもう この風のなかにいない
あのひ 雲雀(ひばり)の歌を聞きながら
ふたりで歩いた 萌黄色の野原も
いまはただ 古ぼけた地図のように
わたしの記憶のなかで 色あせていくだけだ
追憶とは なんて残酷な光なのだろう
若葉をふるわせる この清冽な風さえ
失くしたものを ひそやかに指さしている
わたしは独り 読みかけの頁(ページ)を指でなぞり
帰ることのない 遠い約束を夢に見る
さよならも言わずに 過ぎ去ったものたちよ
空はあんなに 吸いこまれるほど青いのに
わたしの心には 行き場のない言葉が降り積もる
どうか このまま 皐月の風が吹き荒れて
かなしみさえも 淡い花びらのように 散らしてくれたなら
夕暮れがくるまで わたしはこうしていよう
届くはずのない 一通の手紙を綴るように
ひっそりと この優しい絶望を抱きしめて_

#日記広場:小説/詩




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