Nicotto Town ニコッとタウン

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遺伝子の檻

母親から譲り受けたのは、古びたロザリオと、
得体の知れない「影」が染み付いたこの身体だけだ。
一九四五年、あの閃光を浴びたのは俺じゃない。
だが、その毒は俺の細胞(コード)のどこかに、
見えない弾丸として装填されている。
病院の待合室、消毒液の匂いに咽せながら、
俺は自分のカルテを、まるで未解決事件のファイルのように眺める。
「異常なし」という言葉が、
皮肉なジョークのように、俺の鼓動を嘲笑う。
やつら(司法)は言う。「科学的根拠がない」と。
分厚い法典を盾に、俺たちの不安を切り捨てる。
だが、夜中の静寂に聞こえる自分の心音は、
いつ暴発するか分からない時限爆弾の秒読みだ。
俺は二世。
生まれたときから、戦場のど真ん中に放り出されている。
敵の姿は見えない。硝煙も上がらない。
ただ、血のなかに潜む「過去」という名の幽霊と、
一生、背中合わせで踊り続けるだけだ。
浦上の赤煉瓦は積み直されたが、
俺たちの内側にある亀裂は、誰が埋めてくれる?
タバコに火をつけ、灰色の空へ煙を吐き出す。
俺たちは、祈りの言葉も、怒りの叫びも、
すべて胃の底に沈めて生きてきた。
「可哀想な被害者」なんてツラは、死んでも御免だ。
俺の代で、この呪われた連鎖を断ち切る。
たとえ、それが虚空に向かって引き金を引くような無駄足だとしても。
歴史という名の冷酷なバーテンダーに、
もう一杯、苦い酒を注文する。
俺はまだ立っている。
その事実だけで、十分な反撃だ。

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