介護日誌・春の日の戯れ
- カテゴリ:ココロとカラダ
- 2026/04/12 11:48:29
また一日、生き延びてしまった。
父は、ベッドという名の箱舟で、
遠い、誰も知らない国へ向かっているらしい。
父は、ベッドという名の箱舟で、
遠い、誰も知らない国へ向かっているらしい。
昼下がり、父の褥(しとね)を替えながら、
ふと、私の中の「悪い心」が鎌首をもたげる。
(いっそ、このまま、ひらりと)
いや、そんなことは、できない。
私は、この世で最も滑稽な、真面目な子供なのだ。
ふと、私の中の「悪い心」が鎌首をもたげる。
(いっそ、このまま、ひらりと)
いや、そんなことは、できない。
私は、この世で最も滑稽な、真面目な子供なのだ。
「おお、水か」
父はかすれた声で、空を見ている。
ここには天井しかないのに。
父の瞳は、昔、愛した女の裸を思い描いているのか、
それとも、故郷の、泥の匂いのする川を映しているのか。
父はかすれた声で、空を見ている。
ここには天井しかないのに。
父の瞳は、昔、愛した女の裸を思い描いているのか、
それとも、故郷の、泥の匂いのする川を映しているのか。
その虚ろな瞳を見るたび、
私は、どうしようもない惨めさと、
少しの、愛おしさを覚える。
ああ、愛おしい。
こんなにも、愛おしい。
憎らしいくらいに。
私は、どうしようもない惨めさと、
少しの、愛おしさを覚える。
ああ、愛おしい。
こんなにも、愛おしい。
憎らしいくらいに。
食事を一口、また一口。
機械のように、父の口へ運ぶ。
父は、咀嚼することすら、もう退屈な作業なのだ。
私も、生きることに、退屈している。
だから、これは、退屈なもの同士の、
静かな、静かな心中ごっこだ。
機械のように、父の口へ運ぶ。
父は、咀嚼することすら、もう退屈な作業なのだ。
私も、生きることに、退屈している。
だから、これは、退屈なもの同士の、
静かな、静かな心中ごっこだ。
「おい」
「はい」
「春の、お日様は、あたたかいな」
「そうですね」
「はい」
「春の、お日様は、あたたかいな」
「そうですね」
父が、生まれて初めて、
私に優しい言葉をかけた気がした。
それが、脳の細胞が朽ちていく過程で出た、
単なる幻聴だとしても、
私は、その一瞬で、すべてを許してしまう。
私に優しい言葉をかけた気がした。
それが、脳の細胞が朽ちていく過程で出た、
単なる幻聴だとしても、
私は、その一瞬で、すべてを許してしまう。
夕暮れ。
父は、もう泥のように眠っている。
私は、父の細い手を握りながら、
また、明日が来ることに、溜息をつく。
恥の多い、介護の日々。
父よ、死ぬなら、どうか、
笑いながら死んでくれ。
私も、笑って、あなたを箱舟に乗せるから。
父は、もう泥のように眠っている。
私は、父の細い手を握りながら、
また、明日が来ることに、溜息をつく。
恥の多い、介護の日々。
父よ、死ぬなら、どうか、
笑いながら死んでくれ。
私も、笑って、あなたを箱舟に乗せるから。

























