Nicotto Town ニコッとタウン

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泥のついた秒針

雨が降っている。
世界を洗い流すほどではなく、ただ靴の底を汚すだけの雨だ。
喫茶店の隅、冷めきったコーヒーの表面に
天井のシミが、歪んだ月のように映っている。
「いつかは、終わるのね」
向かいの席で、女が折りたたみの傘を見つめていた。
その指先がわずかに震えているのを、俺は見ないふりをする。
なぐさめなんてものは、賞味期限の切れたパンよりも役に立たない。
命は、駅のホームで手放した切符のようなものだ。
行き先はどこであれ、一度改札を通れば二度と戻ることはない。
昨日笑っていた奴が、今日はただの記憶の断片に変わる。
そんな不条理を、俺たちは「日常」と呼んでやり過ごしている。
窓の外を、名前も知らない老人が通り過ぎていった。
一歩、また一歩と、泥を跳ね上げながら。
その歩みの先に何があるのか、本人だってわかっていないはずだ。
俺は最後の一口を飲み干し、席を立つ。
テーブルの上に残されたのは、わずかな小銭と、沈黙だけ。
儚いからこそ美しいなんて、そんな洒落た言葉は吐きたくない。
ただ、消えゆく足跡を、この雨が隠してくれることだけを願った_

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