Nicotto Town



遠い想い出 追憶

モンパルナスの裏窓に寄りかかれば
夜風はもう僕を知らない人のように通り過ぎる
セーヌの橋の下を水が流れるように
僕らの恋も あの情熱も
ただ一方向へ 二度と戻らぬ場所へ流れていった
向かいの壁に映る影を
君の横顔だと錯覚して手を伸ばす
けれど指先が触れるのは
冷たい硝子と 都会の煤けた沈黙だけ
あんなに輝いていたアトリエの灯火も
今は誰かが使い古した 悲しい星屑のようだ
「永遠」なんて言葉を信じていた僕らは
この四角い窓の外へ
自分たちの若さを 少しずつ零し落としてきた
夜が明ければ また日常が始まるだろう
けれど この裏窓に刻まれた
君の呼び名と 僕の孤独だけは
決して誰にも 塗りつぶすことはできない
死んだ詩人たちの溜息が
石畳の隙間に 今夜も静かに降り積もる

モンパルナスの裏窓には
月光さえも刺さらない
ただ 古びたインクの匂いをした闇が
部屋の隅に澱んでいるだけだ
俺は愛を語る口を縫い合わせ
昨日までの名前を 暖炉の灰の中に捨てた
かつて「永遠」を誓った女の瞳は
今では都会のコンクリートと同じ 無機質な灰色だ
街灯の下を這う影たちは
誰の記憶にも残らない ただの文字の羅列
神は句読点を打ち忘れ
この退屈な夜を 際限なく引き延ばしている
期待などという 安っぽい毒を仰ぐのはもうやめた
氷の張ったグラスを傾け
俺は自分という名の 書きかけの遺書を
ただ静かに 夜の底へ沈めていく
夜明けは来ない
たとえ太陽が昇っても
この部屋の裏窓だけは 永遠に閉ざされたままだ

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