Nicotto Town



石畳のメモワール ―琥珀の毒―

霧が、墓石の間を這っている。
名前も読めない 異国の文字が
まるで亡霊のように 白く浮かび上がる。
海からの風は 塩辛く そして冷たい。
ポケットに手を突っ込み 錆びついたコインを弾く。
表か、裏か。
俺の人生に 意味のある賭けはもうない。
ただ 古い石畳だけが 靴底の重みを知っている。
ボーッ、と。
沖から届く霧笛が この世の終わりのようだ。
奴はこの街で死にたがっていた。
だが、結局 骨だけが故郷へ帰る。
俺は その男の最後の依頼を終え
場末のバーの 隅の席に座っている。
手の中には 約束された金と
もう返しようのない 古いライターの重み。
カウンターに その遺品をそっと置き
俺は 薄まった安ウィスキーで 喉を焼く。
カチリ、と 無意味に火を灯せば
小さな炎が 奴の最期の あくびのように揺れた。
振り返らない。
扉を開ければ そこはもう
霧笛も届かない 乾いた現実だ。
男の墓標に 一滴の雨が落ちる。
きっと 空も泣いているフリをしただけだろう。

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