Nicotto Town


夢に見た我が家は、天と地がさかさま


氷の滝(推しCP・SS)



「ちゃんとインスタにアップしたよ」

戦哥(ジャングァ)とスマホで連絡しながら、自分は少し誇らしげに伝える。
今回のクライミングは凍った滝。
寒さと雪崩の恐怖は、今までの経験になかったもので、かなり緊張した。
必要なかけ声も忘れてしまったほどた。何事もなくて良かった、と自分を慰めた。
ベテランのスタッフ、プロのチームと共に挑んでいても、なにが起こるか分からない。
そんな絶壁に片足をかけるような日々を送っている。

いつだって、未経験のことは怖い。避けたい。逃げたい。
誰だって、きっとそうだろう。
自分は、むき出しの「王一博(ワン・イーボー)」として、ステージに立つのをどこか恐れていた。ためらいがあった。
アイドルで、俳優で、歌手。
それは、顔をいくつも塗る必要があり、演じざるを得ず、けれど人との関わりが苦手な自分には好都合だった。

人見知りなのは防衛本能。必要な現実適応。
それが若くしてタレントになれた時、むしろ役立つと分かり、ほんの少し嬉しくも思った。

「今回も苦労した。あとで見てみて。すごいから」

なのに、今は素のままの自分でいられる。それはとても貴重なことだ。
密林や砂漠、高山、様々な場所での冒険が、自分を強くし、長年の化粧を落としてくれた。剥がしてくれた。
怪我をするかもしれない、なにかに襲われるかもしれない、最悪には◯ぬかもしれない。
そんな状況で、着飾ることの無意味さを知った。人と、自然と、真っ向から挑む術を覚えた。

「ああ、あれ、もちろんつけてたよ。登る前にキスもしたから」

彼の反応が楽しみで、含み笑いをしながら告げた。
嘘はついていない。自分にとっては、愛と守護の象徴のような品だ。
それは戦哥も承知している。大事にしていることも。丁寧に扱っていることも。

ぼそっと返ってきたのは一言。「癖なんじゃない?」

「あー、そうきたか。長く付き合ってると愛も冷めがちだね」

考えてもいないことを、けれど拗ねたように口にすると、とたんに動揺した気配が伝わってきた。

六歳年上で。教養があって。家柄がよくて。上品で。
そのうえとびきりの美人だなんて、針ほどの隙もない人なのに、たまにあらわにする可愛らしさ。
今も、本当はきっと自分を案じている。心細くなっている。
当たり前だ。自分は番組のためとはいえ、とても危険なことをしている。
オートレースもそうだ。自分はなにか、ぎりぎりの場所にいないと生きている気がしないのだ。

おそらく、自分は面倒な人間で、実際にそれらを嫌がられたことがある。泣き落としにあったこともある。
けれど自分の恋人は―――肖戦(シャオ・ジャン)は、それらを止めるよう懇願してこない。
応援してくれるが、否定など最初からない。
お互い、高みに立ったからこその、決意と覚悟を分かち合っているからだろう。
もう自分たちの人生は、暴走列車に薪をくべるにも似たスピード感覚で、自分たちにも停止できない。
だから日常を、大切な人を、なにより一番にしたいと心がけている。

「戦哥に、報告するって言ったよね。心配させないから、って」

思わず、指先に絡めてしまうのは、胸につけた骨のアクセサリー。
戦哥からもらった。その骨は、肋の三番目の骨で、心臓に一番近いのだと笑っていた。

2020年。自分たちが急激に名が売れていくなかで、もしかしたら別れを意識したのかもしれない。
この恋は終わるのだと焦っていたのかもしれない。
そして、あの人の慎ましい嫉妬も混じっていたかもしれない。
意味深なプレゼントに、可能性は無限にある。
自分があれほど一途に口説いたのに、忘れたわけでもあるまいに、たまに戦哥は、子供のように震え出す。

だから自分は、動画をとってもらい、インスタグラムにアップした。
24時間で消える、戦哥のためだけの記録だ。自分の無事を祈ってる彼に向けた伝言だ。
写真も多く載せた。遠方からだが、動画に付随させるために用意した。
氷面と戦う男の姿は、頼りなくみえるかもしれないが、自分の精一杯を込めた。

結果的に、多くの人の目に触れてもかまわない。自分は怯まないし、隠さない。
自分を巻き込まないように、と、戦哥は後ろに下がりたがるが、むしろ自分は前に進む。
誰よりも貴い肖戦を失うくらいならば、ザイルを切って谷底に飛び込んだ方がマシだからだ。

「戦哥―――弟弟爱你」

囁くように、自分は告白した。
昔は遠ざかる背中に叫んだ言葉。でも今は、耳元に吹き込むつもりで舌に乗せる言葉。
自分は変わらない。変われない。変わるつもりがない。
ただ、激しい激流のようだった恋情が、穏やかな大河のような愛情に変化しただけだ。

「それ、癖なんじゃないの?」

電波の向こう側で、頬を赤らめているだろう戦哥を想像し、自分は頬を緩めた。
この、氷の滝が溶けたなら。
また、昔のように滝を見に行こう。二人で。一緒に。

#日記広場:日記

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2026/01/24 23:34
> ☤ネコ衛門☤さん

Wくんは、プロのオートレーサーでもあるし、
生死の境目にある危うさがすきなんでしょうかね。
あと、レースもクライミングも一人での戦いだから、それも性に合ってるのかも。

Xさんも、社会人だったのに二十代半ば近くでアイドルに応募し合格し、
その二年後くらいにはドラマ撮影しているので。
すごい適応能力と根性だと思います。

だから、「そんあのやめてよ」と言わなさそうかなって。
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2026/01/24 23:11
Wさんが冒険する理由がリアルっぽくて面白い^^
アイドルって上り詰めるとこんな感じかもしれないよね
それを受け止めてくれるのがX兄さんだけなんだね^^
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2026/01/24 22:37
> ☤ネコ衛門☤さん

わー読んでくれてありがとう「ございます!
割と最近現実であったことを纏めてSSにした感じです。
推しCPのお話、書いててやっぱり楽しかったので。
ちまちま書いてみようと思います(*´∀`)
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2026/01/24 22:27
いいですねぇ(人´∀`).☆.。.:*・゚
なんかそういうことが実際にあったようで
くすぐったく微笑ましくいじらしく…
そんな二人のお話どんどん書いてみてください(〃ノωノ)キャーッ




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