Nicotto Town



一人ぼっちになるために私たちはしゃべるのだ

タカコさん、しばらくぶりにお手紙します。


私は長いことひとりぼっちだったから、自分がひとりぼっちだなんて気づきませんでした。
ずっとご飯は美味しかったし、見るもの全ては楽しかったし。人生にも満足していました。
でもタカコさんがいろんなことを喋ったり、聞いたりするから、私は人生がわけがわからなくなってしまいました。
私一人の時は人生はとても完璧で、疑問もなく、全能でした。私は賢く、有能でした。

だけど、タカコさんが「ねえ武者小路実篤ってどう思う?」といいだすから、私は全然考える予定もなかった白樺派やら真理先生やらについて久方ぶりにページを繰らなければならなくなったばかりか、全然興味のないそれらと無関係でいられなくなったのです。つまり、なぜ私にわからずタカコさんが好きなものというものが存在するのか、という命題に直面せねばならなくなったし、それがどうやら解決がほとほと難しくて。

さらにですね、「ならあなたは何が好きなの?」と言われて「サリンジャーです」と言ってみたら「ふぅん、インテリなのね。私はもっと素朴な作品が好きだわ」と言い出すので、私はサリンジャーを好むのは私のナイーブな部分であってということを全く誰にも伝えられないということが大変不思議に感じました。他人が一人現れるだけで、人間は孤独と不可能性と摩訶不思議とお友達にならなければならないんですね。

タカコさん。私はあなたと友達になりたいわけではないんですよ。でも、私の登場人物になってくれてありがとう。私は人から好かれないから、私の人生には通行人すら来ないので、通行人だけでも結構私には考えることが増えるんですね。

タカコさん、またどこかでお手紙しますね。

(嘘日記)

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