Nicotto Town



「微睡君」の物語の続編、第九節


微睡君は、海辺の町にいた。
駅から歩いて十五分ほどの場所に、小さな宿を見つけた。
部屋にはテレビもなく、壁は薄く、風の音がよく響いた。
それが気に入った。

朝、微睡君は浜辺を歩いた。
砂は冷たく、靴の底から足に伝わる。
波は規則的に寄せては返し、何も求めてこない。
それが、彼にはちょうどよかった。
誰かを思い出すことはなかった。
思い出す必要がなかった。
この町には、記憶を引き出す装置がない。
それが、微睡君には心地よかった。

昼は、港の食堂で焼き魚を食べた。
味は普通だった。
でも、普通であることが、彼には救いだった。
特別なものは、いつも何かを壊す。


夜、宿の窓から海を見た。
暗くて、何も見えなかった。
それでも、微睡君はしばらくそこに立っていた。
何も見えないことが、彼には必要だった。

#日記広場:日記




Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.