ネタばれ読書日記『血の探求』
- カテゴリ:小説/詩
- 2025/09/15 17:56:14
『血の探求』 著:エレン・ウルマン
評価 ★5/5
概要
1974年サンフランシスコ 休職中の大学教授の「私」は講義準備のため古いビルの一室を借りる。隣室は精神分析医がオフィスを構えていた。ある日、雑音発生装置が止められセッションの内容が聞こえて来る。
患者は若い女性で、同性愛者で同棲中の恋人との仲、そして自分の出生に悩んでいる。
え?! 女と女、と思わず耳をダンボにする「私」。
その患者が雑音発生装置が苦手なためそのセッションの最中は盗み聞きが可能だった。
「私」はたちまち、患者の来訪を心待ちにするようになり、精神分析医と患者の会話から、出生の調査が行き詰っていることを知ると、フィールドワークはお手の物♪とばかりに調べ上げ、孤児院のひとつの名を語り調査結果を患者に送付する。
そして隣の暗室で喜ぶ患者と精神科医の会話を盗み聞きを続ける。
感想
「盗み聞きで出来た物語。予測不可能な傑作ミステリ!」と帯にあったがミステリなのは『私』の存在だ。
50ページほど読んで気が付く「この人仕事は??」。
講義準備など皆無、患者の来訪を暗い部屋で懐中電灯の明かりだけで待っている。
お前はゴキブリか。
そもそも何故「休職中」なのか? その答えは「私」の様々な行動と最後まで親切だった職場の知人に連絡を取った時に判明する。
「なにもかも解決するといいですね」
・・・・つまり休職中なのは働けなくなるような事象が発生したということ。周囲の人間に軽蔑されるような状況にあった。つまりは「私」の本性がはっきりとではないが噂レベルで広まってしまったということだよね。
ハイ。確かに主人公は変態です。
ただし攻撃性は無く、異常に人に依存し、ストーカーすることで満足する。
うん、気持ち悪い。
「私」の変質者行動と何度も盗み聞きがバレそうになるという展開に最後まで冷や冷や、心臓に悪いが面白い小説でした。
あと、「患者」はユダヤ人孤児でカトリックにするためにアメリカに引き取られるという欧米の宗教の闇も描かれていてなかなかためになる内容でもありました。