Nicotto Town



【小説】限りなく続く音 5


 夕飯の後片付けを済ませて、私は客間の草太を訪ねた。障子のはめ込みガラス越しに、草太が畳の上に寝転がっているのが見えた。私は障子の桟を軽くぽんぽんと叩いて「草太」と声をかけた。草太は「何?」と答えるだけで、寝転んだままだ。私は障子を開けて部屋に入り、草太の横に座った。
「お風呂。先に入っていいよ」
「うん」
「……あのさあ」
 私が声を低くすると、草太は目だけ動かして私を見た。
「さっき、お供えする時、別に何も考えてないって言ったけど」
「うん」
「いつもは考えないんだけど、何か良いことあった時とか、やなことあった時とか、心の中でおじいちゃんに話しかけるんだよ」
「…おじいちゃんに?」
「うん」
 草太は軽く唇をかんで黙っていたが、ゆっくりと起き上がると「風呂入ってこよ」とスポーツバッグから着替えを取り出した。こちらも見ずにすっと立って部屋を出て行った。明かりが点けっぱなしだ。蛍光灯の紐をカチカチと引いて廊下に出ると、お風呂ではなく仏間に入る草太の後ろ姿が見えた。

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