最期の夜月
- カテゴリ:自作小説
- 2025/07/27 03:09:48
第三十八章
彼の作ってくれたお弁当はとても優しい味がしていた。…「すっごい美味しいよ、肇さん」と彼へと伝えると彼はとても嬉しそうな声のトーンで「ほんと!?」と聞き返していた。…「うん、ほんと」私も素直に彼へと返事をし、…「あ、そだ肇さん?あのね、在宅ワークがもしかしたら5日位で準備出来るかもしれないの」…「え?そんなに早くに出来るの?」と私は「急ぎ気味で」と言った事を言わずに…「うん、きっとあっという間だよ」と返事をした。…「それじゃあ、一緒に物件見に行けるね!」と楽し気に彼は笑う。彼の表情豊かな感じが声のトーンで何となく分かる。…「そうだね、楽しみにしてる」そう伝えると彼も同じ様な返事が返って来た。…「僕も!」私は気掛かりだった事を1つ彼へと聞いてみた。…「肇さん?楽しい会話中にごめんね?」…「うん?」…「少し不安だったって事だけど、カッターは買ってない?」そう聞くと彼は、…「…買おうか迷ったんだけど、美月さんの言ってくれていた様に、先ず切った所に手を当てて深呼吸したんだ…そしたら少しづつ不安が溶けて行くと言うか…なんて言ったら良いんだろう…段々とね…不安がなくなって行く感覚になって買わなかったよ」…「ありがとう、美月さん」と恐らくにこやかに言葉を紡ぐ彼が想像出来た私だ。…「そっか、良かった…本当に…良く頑張ったね」と彼へと伝えると…「へへ…美月さんの朝の言葉のお陰だよ、ありがとう」そう、言ってくれる彼がいた。…「肇さん?今日は何時からバイト入ってるの?」…「えっとね、今日は10時からやってる!」と答えてくれた彼へと…「無理しちゃ絶対駄目だよ?これも私との約束にしよう?」そう伝えると彼は…「うん!分かった!」と相変わらず素直に受け取ってくれた。そろそろ昼休憩も終わる時間だ、私は…「肇さん?ご馳走様、すっごく美味しかったよ」と伝え、…「そろそろ仕事に戻ろうかな」と言葉を続けた。ほんの少しばかりの沈黙の後に…「うん…なんか寂しい」と彼は言った。私は彼に安心して貰う様に…「だーいじょうぶ、いつでも私は傍にいるよ、なーんにも気にしないでいつでも連絡して?ね?」と伝えた。彼はほんの少しの不安さを出す様に…「…うん、分かった、ありがとう、美月さん…」と言葉を紡いでいた。…「本当にいつでも大丈夫だから、すぐ連絡してね?おっけー?」そう尋ねると、…「うん、本当にありがと、美月さん」と彼は言ってくれていた。…「それじゃあ、私仕事戻るね?ちゃんと連絡してね?」と釘を刺し、通話を切った。私は、ご馳走様…と心で言い、彼の作った弁当に手を合わせた。…さて、仕事戻るか…と席を立ち、デスクへと戻る事にした。デスクへと戻った私に上司が在宅ワークの事を切り出してくれた。…「藤田、今大丈夫か?在宅ワークの件なんだが」…「あ、はい」…「急ぎ気味と言っていたが、早くても4日は掛かりそうなんだが、大丈夫そうか?」…4日…有難いと思いながら、…「とても助かります、有難うございます」と上司へと伝えた。…「私も早急に仕事を進めて行くので宜しくお願いします」と上司へと一礼し、…「そうか、助かるよ、頼んだ」と言って頂けた次第だ。私は…4日…きっとあっという間だ…と頭を切り替え、…「それでは先々の仕事に取り掛かってきます」と伝え、デスクへと戻った。…よし、仕事だ、やるか…と気合いを入れ、目の前の仕事へと向き合い始めた。…帰ったら肇さんにも伝えよう…と考えつつも仕事へと頭をシフトチェンジしていく。そんな中、肇さんから連絡が入っていた。「僕…美月さんがいないと不安だよ…」そんな内容だった。「大丈夫だよ、私はちゃーんと帰るし、安心して」と送り返した。彼は「うん、頑張る」そう返事をくれ、10時からのバイト先に元彼が来ていた事には1時間後に知る由となる。