Nicotto Town



ネロ






みごとな壷が献上された。 この世のものとも思えぬ妖しい美しさに臣下の者どもが息を飲む中 若き皇帝は言った
『いつかこの宝も壊れる時がこよう その時、不注意で壊した者の命が失われぬよう 今余の目の前で打ち壊すがよい』

財宝よりも人の命が大事だと
壷を壊させた若き賢帝も
後にたくさんの家臣の命を横暴に奪った

 

 アレキサンダー大王が若い頃、酒宴の席で楽しげに楽器を披露していたところ、父親のフィリッポスからこう言われたそうだ。『そんなに上手く琴を弾いて恥と思わないか!』
(プルターク「英雄伝」より)

 詩や音楽に興じて自ら舞台に立ち、自分を一級の芸術家だと信じていたローマ皇帝ネロはそういう意味では明らかに恥知らずかも知れない。残忍で知られた専制君主でもあった彼は、彼の演奏が始まると観衆が劇場から出ることを許さず、そこで出産した妊婦がいたり、死んだ振りをした者が本当に埋葬されたりしたという逸話が残っている。

 しかし、彼の詩や演劇に対する情熱は真剣で、地震が来ても熱心に詠い続けたというエピソードや、彼が命令した放火によるローマの大火を遠くの塔から見て恍惚として「トロイアの略奪」全編を歌い続けた異常さも有名な話として残っている。

 芸術への愛と憧れをこれほど恥と嘲弄の中で記録された元首も珍しく、彼が死んだとき民衆は飛び上がって喜んだということだ。だがしかし、あれほど憎まれた彼の墓には四季の花が絶えなかったともいわれる。歴史上まれに見る邪悪な独裁者でありながら、芸術、芸能への名声に死ぬまで憧れ続け、厳しい精進と努力は、人知れず認められていたということか。芸にうつつをぬかしていることは恥知らずなことなのか…考えてしまう。








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