時
- カテゴリ:小説/詩
- 2025/06/06 21:54:50
夢は咲き終わったが
少しだけ高く聳えていた
自分を凌駕するものと闘うためにではなく
目に入る世界を見守るために
僅かに高い背丈を与えられたからだ
虫たちが地面を覆って鳴いても
やがて静寂が訪れる
虫の音の絶えた日を誰も憶えてはいないが
僅かに高い背丈を与えられたものだけが
その無言を聴く
巨大な門が開かれていく夜
その奥にかがり火が見えてくる
誰が見たのでもない
全ての者たちに見えてしまうかすかな炎
見ることはちいさな意志に過ぎないが
見えてくることは宿命であるかのように
時をまたいで更に暗闇の深くに
赤く揺らいでいる
私の時計は家具たちの隙間に納まっているので
夕暮れに取り囲まれると文字盤が見えなくなる
顔が亡くなった人のように
こちらを見ているのだけが分かる
時がいつからそこに置かれたのか
思い出そうとしてぼんやりしていると
人が次々とやってきては
断崖から落ちていくのが見える
落ちていくのか上昇していくのか
本当のところは誰にも分からないのだが・・・
文字盤の顔が薄闇に溶けると
時たちはほんとうの自分を取り戻す
それらが周りからじっと見つめてくるので
私も加わろうと 暗く透き通り始める