あの日
- カテゴリ:小説/詩
- 2025/05/30 22:00:15
逃げ惑う人々を追って濁流が大地を舐めていく
 あらゆる人が造ったものが
 波間で砕かれ、押し流され
 水を嫌う火焔さえ海水に加担した
 
何も覚えられない
 記憶には眠りが必要だと
 誰かが言っていたのを思い出す
 けれど眠りは人々の中に落ちていかない
 蘇ってくるものは
 深い底から突き上げてくる
 大地の揺ればかり
 
服を汚した小さい子が泣きながら歩いて来る
 泣かないでお家にお帰り!
 今日という日はすべてこれで終わったんだ!
 
波が去ると海の方から
 漆黒の闇と海底のような沈黙がやってきた
 濡れた体をどうしたのか
 覚えている人はいない
 春は怖気づいて近づくのをやめた
 それでも人々は振り返って
 何を記憶しようとしたのだろうか
 揺れる大地に
 雪が降りしきったことを
 だれが覚えているのだろうか
 
 


 
		






























