Nicotto Town



あの日






逃げ惑う人々を追って濁流が大地を舐めていく
あらゆる人が造ったものが
波間で砕かれ、押し流され
水を嫌う火焔さえ海水に加担した

何も覚えられない
記憶には眠りが必要だと
誰かが言っていたのを思い出す
けれど眠りは人々の中に落ちていかない
蘇ってくるものは
深い底から突き上げてくる
大地の揺ればかり

服を汚した小さい子が泣きながら歩いて来る
泣かないでお家にお帰り!
今日という日はすべてこれで終わったんだ!

波が去ると海の方から
漆黒の闇と海底のような沈黙がやってきた
濡れた体をどうしたのか
覚えている人はいない
春は怖気づいて近づくのをやめた
それでも人々は振り返って
何を記憶しようとしたのだろうか
揺れる大地に
雪が降りしきったことを
だれが覚えているのだろうか








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