Nicotto Town



【小説】先生を好きになってもいいですか?(改)①



【出会い】

「え~~~~~っ!?女子たったの9人なのぉ?」

私は井上望(いのうえのぞみ)府立K高等学校の3年生。

3年だけは、理数系と文系で別々のクラス編成になっている。
進学クラスとも言われる理数系は、2クラス。
そのほとんどが男子だった。
女子は少ないこともあって1クラスにまとめられたけど、それでもたったの9人。
私は別に進学クラス希望ではなかったんだけど、英語が苦手で英語の授業が少ない理数系を選んだんだ。
理科と数学は得意だったしね。
担任は数学の先生で土田先生だった。
ちょっと悪い男子生徒とも仲良くやっていけそうな年配に先生だ。

昨日は始業式で、今日から本格的な授業が始まった。
いたずら好きの西森君と寺田君と岡本君が、一生懸命黒板消しにチョークの粉をつけていた。
「あんた達、なにしてんの?」
私は注意するつもりで聞いたんだけど、
「ドアの上の方にはさんでおいて、来た先生がドアを開けたら、頭の上にチョークの粉のいっぱいついた黒板消しが落ちてくる仕掛け♡」
正直に話すところが可愛いと思ってしまった。
「そんな何十年も昔のいたずらにひっかかる先生なんていないわよ(笑)」
私はこんないたずらにひっかかる先生がいるとは思っていなかったので、西森君達のいたずらを止めることは、しなかった。
現に午前中の先生達は誰一人ひっかからなかった。

ところが5時限目ーーーーー

パコーン!!

黒板消しが世界史の先生の頭上に直撃した。

いたずらが成功して喜ぶ西森君達。
粉だらけの先生を見て笑うクラスメート。
私は慌てて先生のところに行ってチョークの粉をはたいた。
「先生、大丈夫ですか?」
「西森君!寺田君!岡本君!先生に謝りなさい!!」
と、叫んだ。
「君、名前は?」
と、先生が聞いてきた。
「井上です。井上望です。」
先生は私を諭すように話し始めた。
「井上。これは、その3人だけの責任じゃないだろ?」
「知っていて何も言わなかったみんなの責任じゃないのか?」
私は自分の考えをいさめられた気がした。
「大丈夫だから、井上も席に戻りなさい。」
私はしゃしゃり出た自分が恥ずかしかった。

先生は黒板に
『水原圭(みずはらけい)』
と書き自己紹介をした。
「このクラスの世界史を担当することになった水原圭だ。」
茶髪で金縁の眼鏡が似合う、幼顔の先生だった。

私は世界史の授業中、ずっと、さっきの先生の言葉を思い出していた。
そして、授業が終わって教室を出ていく先生を追いかけて
「水原先生、さっきはごめんなさい。」
「先生の言う通りみんなの責任だと思いました。」
「それなのに自分が正義の味方のような発言をして恥ずかしかったと思いました。」
水原先生はふり返って
「人の助言を素直に聞けるってことは大事なことだ。えらいぞ。」
そして、先生は笑顔で、
「さっきはチョークの粉をはらってくれて、ありがとうな。」
そう言って、先生は社会科準備室に戻っていった。

私はといえば、不覚にも水原先生の笑顔に胸がキュンとした。




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