Nicotto Town



ツバメ





何かを抱きしめようとして風は生まれた

風が消えるのを見たものがいないように

その誕生を知るものもいない

空だけが体の奥底でそれを感じるのか

何かに口づけしようとしてその鳥は生まれた

その鳥こそ君なのか


風に乗って大空を羽ばたくのではなく

地面すれすれに街を切り裂いていく

なくした風を探している

踊る風に口づけされた頬だけが

風が吹き去ったことを知っている

風を逃すまいと追い続けているうちに

追い抜いてしまったことさえ気付かない


君は人に見えない風になって

だれも聞いたことのない詩を詠ってくれる

うつむいて泣いている少女にも

冷たい雨が背中を濡らす男にも

一度も心から笑ったことのない老婆にも


風を見送るのが好き

美しければ悲しみにも価値があると君は言ったね

でも、君が風のように僕の前を去ってから

僕は風の音に振り返ることもなくなった


雨が来そうだ

空が泣き出すみたいに

ツバメがあんなに低く空を飛んでいる









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