ツバメ
- カテゴリ:小説/詩
- 2025/05/22 21:39:08
何かを抱きしめようとして風は生まれた
風が消えるのを見たものがいないように
その誕生を知るものもいない
空だけが体の奥底でそれを感じるのか
何かに口づけしようとしてその鳥は生まれた
その鳥こそ君なのか
風に乗って大空を羽ばたくのではなく
地面すれすれに街を切り裂いていく
なくした風を探している
踊る風に口づけされた頬だけが
風が吹き去ったことを知っている
風を逃すまいと追い続けているうちに
追い抜いてしまったことさえ気付かない
君は人に見えない風になって
だれも聞いたことのない詩を詠ってくれる
うつむいて泣いている少女にも
冷たい雨が背中を濡らす男にも
一度も心から笑ったことのない老婆にも
風を見送るのが好き
美しければ悲しみにも価値があると君は言ったね
でも、君が風のように僕の前を去ってから
僕は風の音に振り返ることもなくなった
雨が来そうだ
空が泣き出すみたいに
ツバメがあんなに低く空を飛んでいる