自作小説倶楽部2月投稿
- カテゴリ:自作小説
- 2025/02/28 22:25:03
『合わせ鏡』
貴男に、話しておかなくてはならないことがあるの。
と彼女は突然言った。
彼女の用意した夕食に満足し、彼女の美しい容姿と動きに魅了されてテーブルを離れがたくなっていた時だった。僕はテーブルに肘を立て、美しい曲線を描くあごの下で彼女の両手が合わさり、指が交差するのに見とれていたから、一瞬戸惑った。
「何だい? 長い話ならお酒を出そうか? とっておきのがあるんだ」
「少しは必要かしら」
グラスを並べて酒を注ぐ、乾杯しようかと思ったが彼女はグラスを見つめたままだったので止めた。僕が椅子に座り直すと彼女は話を再開する。
「私には姉がいるのよ」
「へえ、君に似て美人なんだろうな」
「お世辞は不要よ。確かに姉と私は似ているわ。どこから話せばいいかしら」
「君とは何歳違い?」
「二歳ね。でも本当によく似ていたわ。小さい頃、私は姉のミニチュアだった。高校生くらいには姉と変わらない背丈になってからは毎日鏡を見ているようだった」
それでね。私たちはとてもよく似ていたから
彼女は、酒の入ったグラスの縁を指でなぞる。しかしグラスを持ってお酒を飲もうとはしなかった。
私たちはとてもよく似ていた。背丈が同じくらいになるとよく服を交換した。そうするうちに、みんなが姉と私を区別できるか試してみようという話になったの。自分たちでは慣れすぎてそっくりに見えるだけかもしれないと思ったから、
私たちの行動をいたずらと考えれば結果は大成功だったわ。姉のボーイフレンドも友達も少し大人びたメイクをした私を姉と思い込んで話しかけて来たの。姉も同様だったわ。それから少し意地になって私と姉は入れ替わりを続けたわ。私は3回くらい当時の姉のボーイフレンドとデートしてみたけどつまらなかった。
思えばそれがある種の自我の目覚めだったのだと思う。姉の存在は私にとって頭絵の存在だったわ。でも姉と私は別々の人間で離れて生きることも出来ることに私たちは気が付いてしまったの。
仲が悪くなった? いいえ。そんな風に考える友達もいたけど私と姉が考えたことは同じだった。
それぞれの人生を築くことが必要なんだと。
それから、それぞれ姉とは別の大学に進学して、離れて暮らすようになった。
それでもたまにメールして、週末には必ず電話をして一週間の出来事を報告していた。
1年くらい、そうして距離をたもっていた。そして姉に恋人ができたことを聞いたの。姉は彼氏に夢中だった。私? 告白されることもあったけど中々お付き合いには至らなかったわ。姉のボーイフレンドたちに失望したせいかもね。
姉の話は彼氏のことばかりだった。彼がどんなにかっこよくて素敵な人か、デートでどこに行って、何を食べて何を話したか。
私は少し嫉妬してしまいました。それで、姉に内緒で彼氏に会いに行ったのよ。もちろん姉のフリをして。当時は姉と髪型も洋服も違っていたから苦労したけど安とか納得のいく格好になって、私は姉から聞いた彼の会社の前で待ち伏せしたのよ。
覚えている? あの夜、私が赤いスカーフを身に着けて、ウィッグをかぶっていたことを。
ちょっとハンサムだとは思ったけど、平凡な人間だと思っていたわ。でも違う。悪い意味でね。姉が私に彼氏のことを話したのは、ほかに話すことが出来なかったから、何かと理由を付けて姉の友人たちとは顔を合わせなかったようね。
最初から姉はターゲットの一人だった。いいえ、私もそうよね。
このワインの中に何を入れたの?
連続殺人鬼さん。
少しはマスコミの話題になっているけど事件が起こるのは3年に一度程度だからなかなか話題にならないのよね?
警察に突き出す? そんなことしないわ。私が貴男のことを黙っていたのは自分で姉の敵を討つためよ。どう? 貴男は今ワインに薬を入れたようだけど、さっきの食事には私が睡眠薬を入れたわ。一年付き合ってみて貴男の体質も把握したかたよく聞くでしょう?
ああ、もう寝ちゃったのね。首を絞める間に良い夢が見れるかしら。

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- ミコ
- 2025/03/09 20:30
- お見事な返り討ち
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- 紅之蘭
- 2025/03/05 23:25
- 今回もまた毒の効いたお話しだったな~
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