Nicotto Town



【小説】愛里の恋2 その⑩ 3年10組の教室3



湖桃先輩は高橋先輩に抱きかかえられるようにして、教室を出て行った。

梶先輩はその場にしゃがみこんだ。
うつむいて、泣いているように見えた。
私は小さな子供をあやすように、梶先輩の頭を抱きかかえた。
「梶先輩...」
梶先輩は、私の腕を強く握って、泣いていた。
「愛里ちゃん...」
「僕は湖桃が大事だったんだ...」
「でも、それ以上に自分のことを...」
「どうして、僕は湖桃を守ってやれなかったんだろう...」
気持ちを吐き出すように梶先輩が話し出した。
「梶先輩は優しい人です。」
「半年間梶先輩を見てきた私が言うんです。間違いありません。」
梶先輩は下を向いて目を見開いて言った。
「今回の看板係のことだって、なぜ、止めてやれなかったんだろう...」
「どうして、伊藤の事、怒れなかったんだろう...」
「湖桃と付き合ってたのが僕じゃなく大地なら、もっと、湖桃も幸せだったんじゃないだろうか...」
私は私の腕をつかんでいた梶先輩の手をそっと握って言った。
「それでも、湖桃先輩が好きになったのは、梶先輩のことです。」
「もっと、自信を持ってください。」
「私の事ふって選んだんでしょ。」
梶先輩は私の顔を見ながら、
「僕は愛里ちゃんにも、ひどいことしたんだよな...」
「私のことはいいんです。勝手に梶先輩の事好きだっただけですから。」
梶先輩は我を忘れたかのように
「愛里ちゃん、まだ、僕の事が好きなら...」

ガラッ!

「落ちるとこまで落ちるなよな!」
湖桃先輩を送り終わった高橋先輩が戻ってきた。
「大地...」
「高橋先輩、私なら大丈夫ですから。」
「梶先輩、最後の言葉は聞かなかったことにします。」

「平松、送っていくよ。」
少し疲れた顔で高橋先輩が言った。
「でも、梶先輩が...」
私は、まだ、梶先輩のことが心配だった。
「梶も男だったら、ひとりで耐えろ!」
高橋先輩はそう言って私の手を引っ張って、教室を出て行った。

――――自転車置き場

「高橋先輩、すごく疲れるんじゃないですか?」
「私なら、ひとりで大丈夫ですから。」
高橋先輩は、私の顔を覗き込んで
「すごく、疲れた。でも、送っていく。」
「高橋先輩、駄々っ子ですね(笑)」
歩きながら、高橋先輩が私に聞いてきた。
「俺...間違ってるのかな...」
私は少し目を泳がして
「間違ってないと思います。あのまま二人が付き合っていても、幸せじゃないと思います。」
「なあ、梶のこと嫌いにならないでやってくれよな。」
私は少し考えて、
「じゃ、自転車、私のうしろに乗って、送らせてください。」
「そうしたら、嫌いになりません。」
高橋先輩はよほど疲れていたのか、OKしてくれた。

私は夜空を見上げみんなが幸せになりますようにと願った。




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