【小説】愛里の恋2 その⑩ 3年10組の教室3
- カテゴリ:自作小説
- 2025/02/17 19:29:26
湖桃先輩は高橋先輩に抱きかかえられるようにして、教室を出て行った。
梶先輩はその場にしゃがみこんだ。
うつむいて、泣いているように見えた。
私は小さな子供をあやすように、梶先輩の頭を抱きかかえた。
「梶先輩...」
梶先輩は、私の腕を強く握って、泣いていた。
「愛里ちゃん...」
「僕は湖桃が大事だったんだ...」
「でも、それ以上に自分のことを...」
「どうして、僕は湖桃を守ってやれなかったんだろう...」
気持ちを吐き出すように梶先輩が話し出した。
「梶先輩は優しい人です。」
「半年間梶先輩を見てきた私が言うんです。間違いありません。」
梶先輩は下を向いて目を見開いて言った。
「今回の看板係のことだって、なぜ、止めてやれなかったんだろう...」
「どうして、伊藤の事、怒れなかったんだろう...」
「湖桃と付き合ってたのが僕じゃなく大地なら、もっと、湖桃も幸せだったんじゃないだろうか...」
私は私の腕をつかんでいた梶先輩の手をそっと握って言った。
「それでも、湖桃先輩が好きになったのは、梶先輩のことです。」
「もっと、自信を持ってください。」
「私の事ふって選んだんでしょ。」
梶先輩は私の顔を見ながら、
「僕は愛里ちゃんにも、ひどいことしたんだよな...」
「私のことはいいんです。勝手に梶先輩の事好きだっただけですから。」
梶先輩は我を忘れたかのように
「愛里ちゃん、まだ、僕の事が好きなら...」
ガラッ!
「落ちるとこまで落ちるなよな!」
湖桃先輩を送り終わった高橋先輩が戻ってきた。
「大地...」
「高橋先輩、私なら大丈夫ですから。」
「梶先輩、最後の言葉は聞かなかったことにします。」
「平松、送っていくよ。」
少し疲れた顔で高橋先輩が言った。
「でも、梶先輩が...」
私は、まだ、梶先輩のことが心配だった。
「梶も男だったら、ひとりで耐えろ!」
高橋先輩はそう言って私の手を引っ張って、教室を出て行った。
――――自転車置き場
「高橋先輩、すごく疲れるんじゃないですか?」
「私なら、ひとりで大丈夫ですから。」
高橋先輩は、私の顔を覗き込んで
「すごく、疲れた。でも、送っていく。」
「高橋先輩、駄々っ子ですね(笑)」
歩きながら、高橋先輩が私に聞いてきた。
「俺...間違ってるのかな...」
私は少し目を泳がして
「間違ってないと思います。あのまま二人が付き合っていても、幸せじゃないと思います。」
「なあ、梶のこと嫌いにならないでやってくれよな。」
私は少し考えて、
「じゃ、自転車、私のうしろに乗って、送らせてください。」
「そうしたら、嫌いになりません。」
高橋先輩はよほど疲れていたのか、OKしてくれた。
私は夜空を見上げみんなが幸せになりますようにと願った。