Nicotto Town


モリバランノスケ


勇払の小蝶


今、小蝶とクマオ/ヤマオは、北海道の中央南端部に位置する勇払原野に居る。止まっているのは、樹齢3百年と推定される、エゾヤマザクラの枝上。初秋の空は、真っ青に澄み渡り、北西には、白煙を棚引かせる、樽前山の姿が在った。

場所は、この辺りに住み着いた、主に酪農を生業とする人達の、心の拠り所となって来たプロテスタントの教会、その前庭である。その歴史は、150年には成るだろう。ここは、北海道でも、有数の酪農地帯である。近くに、大手企業のチ―ズ工場も。又、今迄、ダ―ビ―馬が幾頭も出た、競走馬の生産地、故郷でもある。

エゾヤマザクラの下で、三人の少年が、キャッチボールをしている。高校2年生、中学3年生、小学5年生の三兄弟。今朝、教会の日曜学校に出席したが、終わった後の遊びの様だ。長男が投手、次男が捕手、三男が打者を演じている。

遊び疲れたのか、三人は、芝生の上に座り、何やら楽しげに、話を始めた。突然、三男が樹上を見上げると、(あんな所に、蝶、トンボ、クワガタが、仲良く止まっている)と、人差し指を立てて、兄達に指し示し、驚きの声を上げた。

三人の中でも、幼い頃から、昆虫達と親しく接してきた二男は、特に興味があるようで、一心に見詰めている。心のなかで、(一体何をしているのだろう)と、呟きながら、(こっちに降りておいでよ。話をしませんか!)と、言葉を投げる。

小蝶は、彼の言葉を聞き、(この人は信用できる)と、一瞬で感じ取った様である。クワオとヤマオを誘って、下に降りて来る。そして、兄弟の前に座った。最初は、互いに、相手を観察していてが、緊張の糸が溶けたのか、話し始める。

小 (始めまして。私は、アサギマダラの小蝶と
  申します。旅をするのが、仕事·宿命です)
ク (始めまして。私は、オオクワガタのクワオ
  と言います)
ヤ (始めまして。私は、オニヤンマのヤマオと
  言います)

小蝶は、三兄弟に、(自己紹介していただく必要は在りません。私には分かりますよ)と、前置きして語り始める。

⊕あなた達は、近くの牧場を営むFamilyの、三兄弟。今朝、ここの教会で、日曜学校に参加した。その後、ここで遊んでいたのですよね⊕

長男は、(何故、分かるのか、不思議?)と、呟いている。そして、(あなた達は、どうしてその様に寄り添い、仲良くしているの?)と尋ねる。

それを皮切りに、彼らの間に会話が弾みだす。

小 (2人共、旅の途中から加わった仲間です。
  クワオは、岐阜県郡上から、ヤマオは静岡
  県浜名から。最初は、私のまもり役でした
  が、目的を一つにする同志に成りました)
二 (まるで、水戸黄門の助さん格さんみたい)

小蝶は、それを聞き、内心、(そうかも知れない)と、頷いている。

長男が、(良かったら、我が家にLunchを食べに来ませんか)と誘う。小蝶は最初、(見ず知らずの私達が、いんですか?)と、遠慮していた。何か心に響くところがあったようで、クワオとヤマオの同意を得て、好意を受ける事にした。

今、小蝶達は、兄弟に連れられて、山の一本道を、西の方角に進んでいる。柏、ナラ、白樺、こぶし、カラマツ等の見事な樹林。葉隠に、ツタ植物の、山葡萄やコクワの熟した実が、秋の主役であるかの様に、顔を覗かせている。

暫く進むと、視界が開け、右側に牧場が拡がった。遠くで、1頭の馬が、下に頭を垂れてノンビリと草を喰んでいる。長男が、道端に生えている、葦の葉で草笛を作ると、(ピィー)と、鳴らした。馬は、耳を立てそれを聞き、走って来る。

長男の愛馬、ウマオである。そばに来た彼に、(小蝶さん、クワオさん、ヤマオさんを背中に乗せてあげなさい)と、告げる。彼等は、文字通り、馬があったみたいで、ウマオのたてがみに、シッカリと掴まった。旧友の再会である。

紅葉が始まった樹林を抜けると、道は右側に軽くカ―ブして、僅かな上り坂となる。丘の上に、ログハウスが、建っていた。それが、三兄弟の家である。丘の下には、初秋の佇まいを魅せている、沼が拡がっていた。まだ数は少ないが、夏をシベリヤ等の北国で過ごし、ここ野鳥の聖域に帰還した水鳥が、ゆったと、水面に遊ぶ。

長男が、ログハウスのDoorを開き、(ただいま。友達を連れて来ました)と、言いながら、小蝶達を招き入れた。母親が、(遅かったわね)と、応答する。三兄弟の父親は、ここの農業協同組合の理事長をしている。今度の、石破新内閣の誕生に伴い、農林水産省と改めて乳価の交渉を行う為、東京に出掛けていて、不在である。

今、DiningTableに、小蝶、クワオ、ヤマオの3名は、少し緊張した面持ちで、座っている。対面して、母親、長男、二男、三男が座り、彼等に優しげな眼差しを注いでいた。そんな光景を、窓越しに興味深げに見詰める、ウマオの姿が。

小蝶は、考えていた。何処かで、同じ様な光景に遭遇したことがある。場所は、何処だろう。
そうだ!!。あれは、沖縄読谷村を訪ねた時の事だ。大空を滑空してきた、大鷹のタカオを囲み、座の話が盛り上がっていた時、確か、私は前の夜に見た夢を思い起こしていた。今、目にしているのは、あの夢の中の光景と全く同じ。

[設定は全く同じである。三兄弟もそうだし、彼等の母親も、そうである。談笑の中で、彼女は、私がお蝶の子どもである事に、そうではないかしらと、ウスウス感じていた。けれども、食事中は、いや、このログハウスを失礼するまで、言葉に出しては、言ってくださらなかった。どうしてだろう?。それは、夢の中だったからかしら?。

しかし、沼ノ端の駅から、銀河Expressで、出発する直前、三兄弟の母親は、愛馬バタフライに乗って、駆けつけてきた。そして私に言葉を。

(貴女は、小蝶ですね!。間違いないわ。私は、貴女の母親ですよ。私達は、思いの世界で繋がっています。苦しい事があっだ時、忘れないで)

あの時、この方は、自分を私の母親と名乗ったように聞こえた。でも、そんなことって、無いですよね。この方は人間、私は蝶だもの]

小蝶が、沖縄読谷村で見た、夢の事に想いをめぐらしていると、三兄弟の母親が、(何処から、いらしたの?)と、言葉を掛けてきた。

小蝶は、母親をシッカリと見つめ、話し始める。

⊕私は、アサギマダラの小蝶と申します。生まれ故郷は、千葉南房総です。旅が、仕事であり宿命。でも、心の目的は、母の足跡を辿る事。

最初、母の生まれ故郷、沖縄宮古島に行きました。それから、大分県日田、瀬戸小豆島、岐阜県郡上、静岡県浜名、下町浜町、都西高松山、都下田浜山、房総小多喜、尾瀬、奥会津、会津若松、ワシントンDC、宮城県亘理、岩手八幡平、北海道洞爺、そして先程、ここ勇払にお邪魔したのです。

話が、長くなって、申し訳御座いません ⊕

ここ迄、小蝶の話を、じっと聴いていた母親は、(この子、お蝶の子供。確かにそう。間違いないわ)と、呟いている。

そして、心のなかで、確信していた。

⊕私とお蝶は、心の深い所で、繋がる関係。そこは、総てが生まれて来る、混沌の世界.異界。私達は、お互いに、(あなた.汝)と呼び合う仲⊕

母は子蝶に、(待ってたのよ)と言葉を掛け、満面の笑みで包みこんだ。




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