深淵の中の蝶
- カテゴリ:自作小説
- 2024/09/27 03:06:19
第十一章
彼好みの味に仕上がった卵焼きはあっという間に二人して完食していた。
私はなんだか、彼に違和感を感じていたことを聞いてみる事にした。「悠さん…少し無理して笑ってない…?」…「あー…流石と言うか…由佳里さんには見通されちゃってますね…はは」…「いや、なんだかそんな風に感じちゃって…」…「それはあるかもしんないっすね…由佳里さんって不思議な方っすよね…何でこんなにお見通しなんすかね…すげー不思議でならないっす、マジで…俺が分かり易いだけなんすかね…はは」…「いや…なんて言ったら良いのかな…悠さんの笑顔が少しだけ痛々しく見えてしまって…勘違いだったらすみません…」…「いや…割と合ってるんすよね…なんか笑ってしまうんすよね…俺も自分自身で何となく無理してんなって思うんで…」…「無理して笑う必要は無いですよ…私には素の状態を見せて欲しいです…」…「…そうっすか?俺、素でいてもいーんすかね…?」…「寧ろ、その方が私は嬉しいよ?」…「そうっ…すかね?」…「うん」そんな会話から始まり、彼の心の強張りを少しでも和らげてあげたかった私がいた。どうしても彼を放っておく事が出来なかったと言った方があっているのかも知れない。私はきっと、彼を支えたいのだと思った瞬間でもあった。どうしてなのかは分からない、でも無性に放ってはおけなかったのだ。ほんの少し、沈黙の後に「…すんません…ちょっとマジで泣きそうっす…」そう発した彼の言葉に私は、彼を抱き締めていた。「…大丈夫だよ、泣きたい時は泣きなよ…そんな独りで抱え込まないで…?ゆっくりゆっくりで良いから、頼りたいと思った時に頼ってよ…」そう彼へと伝えると、彼は今迄抱えてきたであろう涙を全て出すかの様に、嗚咽交じりに泣いていた。
「…苦しいよね…悲しいよね、寂しいよね…大事な人を亡くして…笑う事なんて無理だよ…」彼の顔は見れずにいたが、彼の涙が私の皮膚へと段々と侵食して行くかの様に、止めどなく彼は泣き続けていた。「…良く、頑張ったね…偉いと思うよ…」私は彼の抱えているであろう考えを彼へと伝え続けた。彼の涙をどうしても拭いたくなった私は、「悠さん?…顔を見せて貰えたりはする…?…「あー…恥ずかしいっすね…こんな泣き顔…」…「…そうだよね、でもごめんね?」彼へとそう伝え、半ば強引に抱き締めていた彼から離れ、顔を覗き込んだ。眼に沢山の涙を抱え、流れ続けている彼の顔に私はそっと触れた。「大丈夫だよ」私は涙を拭う様に、頬を覆う様に指を涙へとそっと沿わせた。彼は驚いた様に「なんで…そんなに優しいんすか…」そう言った後、彼は涙を流していた。私は、彼の心に寄り添う事が出来ただろうか…そんな事を考えながらも、彼に触れることを止めることが出来ずにいる、そんな時間が続く夜だった。
泣いて辛さ悲しさ苦しさが流れていくと良いですね
読ませていただいて心がほんのり温かくなりました
いつもありがとうございます(*・ω・)*_ _)ペコリ