トノスカとマカ 17
- カテゴリ:自作小説
- 2024/08/22 23:10:17
トノスカは神父の背後にいるペスカトーレに目で合図した。
ペスカトーレはいきなり背後から神父の襟首を掴むと、強引に司教服を剥ぎ取ろうとした。
しかし、神父はとても素早くなめらかな動きで体を反転させ、同時にペスカトーレの手首を掴み、ねじった。
その動きは側から見てるとまるで子供を促すときのように優しく見えたが、内実、凄まじい凶悪な力だった。
ごきり、とペスカトーレの手首が折れる音が近くにいたトノスカには聞こえた。
ペスカトーレはたまらず、声を上げて神父の襟首から手を離した。
マカが町の人たちに銃を向けたまま、アーシャンに言った。
アーシャン!!
アーシャンは神父に近づくと、迷い無く神父の肩を撃った。
観客席から悲鳴が上がった。
教職者として町の人たちから信頼されているアーシャンがこんな暴挙に出るとは町の人たちには信じられないことだった。
アーシャンは例え神父を殺してしまうことになったとしても、自分たちがどんなひどい目に合うかも知れなくても、必ずその正体を暴かなければならないと、この計画を考えた夜に決意していた。
それは、トノスカも、マカも、ペスカトーレも同じだった。
神父は少しよろめいた。
しかし、神父は痛がるどころか、平然とした表情でアーシャンに言った。
あなたは中等部の教師ですね。
教職につくものが一体何をしておられるのですか?
神父は祭壇に立つ時が最も無防備になることをわかっていた。だから、いつ襲撃を受けてもいいように、鉄のワイヤーが編み込まれた防護服を神父服の下に着ていた。
神は私を護って下さっておられます。
神父はそう言って、目の前のトノスカの銃を掴んで優しくひねった。
動きはとてもなめらかでゆっくりなのだが、なぜか虚をつかれた。
トノスカの手に激痛が走り、銃を床に落としてしまった。
町の人たちは息をのんでその様子を見ている。
母親たちは子供たちを抱いて、子供たちの顔を隠していた。
神父はまた素早くなめらかな動きで、アーシャンに近づいて、銃をひねり落とした。
アーシャンの手にも激痛が走った。
マカは、銃口を神父に向けて大声で言った。
この野郎、さすがストロベリーのボスなだけはあるな!!
戦い方が慣れてるぜ!!
神父はマカをじっと見た。
あざの男と同じ、人の心を見透かすような不気味な目だった。
マカはその目に物応じせずに、神父を指差して町の人たちに叫んだ。
おい、だまされてんじゃねえぞ!
こいつがストロベリーのボスなんだ!!
そして、マカは神父の目を見ながらじりじりと距離を詰めていった。
今、それを暴いてやる。。
マカはこどもの頃から本当は一番ケンカが強かった。
力が強いわけでも体が特別大きいわけでもなかったけど、天性の格闘センスがあった。
本当は力の強いトノスカや身体の大きなブルーよりも強かったが、その強さを隠していた。
マカは独特の動きでゆっくりと神父に近づくと、突然凄まじいスピードで神父の腕を掴んで、ぐるりとまわした。
神父はそのスピードに対応できずに、ひっくり返ったように見えたが、一回転して着地した。
神父もまた並外れた格闘術を身につけていた。
神父はすぐにマカの手首を掴み返して、ひねろうとしたが、今度はマカがそれを読んで自分から体ごと回転して回避した。
あっという間の素早い攻防に、祭壇上にいるトノスカたちも、座って見ている町の人たちも呆気に取られていた。
それは、まるでサーカスか中国雑技団のような動きだったが、実は2人とも日本の合気道という武道を使っていた。
しかもマカは図書館の本で読んだだけの自己流だった。
すると、神父はマカの一瞬の虚をつき、とても低い姿勢でするりとマカの懐に潜って何かをした。
神父が一体何をしたか、トノスカたちや町の人たちからはマカの体に隠れて見えなかった。
一瞬の出来事だった。
マカは、ぐぅ。。と、奇妙なうめき声をあげると、ゆっくりと床に倒れ込んだ。
ペスカトーレが叫んだ。
おい!!マカ!!
叫びながら、ペスカトーレとトノスカが倒れてうずくまっているマカに駆け寄った。
アーシャンは銃を拾って神父の顔に突き付けて言った。
動くんじゃない。
今度は顔を撃つ。
神父はアーシャンを見ると、言った。
この者たちに潜む悪魔を、私は神に仕える者として、見過ごすわけにはいきません。
町の人たちに向けてそう言うと、神父はアーシャンに向かってまっすぐ歩き出した。
アーシャンは神父の目を見ながら、引き金を引こうとした。しかし、どうしても撃てない。
神父を恐れた訳でも、自分が逮捕されることを恐れた訳でも無く、アーシャンには、ただ人を殺すことがどうしても出来なかった。例え、その相手が極悪非道なギャングのボスだとわかっていても、出来なかった。
神父はそれを見透かしていた。
ゆっくりとアーシャンの手首を掴み、また手首をひねって銃を床に落とした。
今度はさらに強く手首をひねり、アーシャンは床に叩きつけられるように転倒した。
その瞬間、後ろからトノスカが神父に思いっきり飛びかかった。
トノスカは両手で神父の襟元を掴んで、司教服の背中を無理やり一気に引き裂いた。
トノスカは満身の力を込めて防護服もろとも司教服を引きちぎったが、防護服は頑丈で、背中の途中までしか防護服はめくれなかった。
それでも、服の上からはわからない神父の異様なほどの屈強な背中は半分露わになって、そこには背中一面に大きく彫られたストロベリーのシンボルである刀剣に双頭のヘビが絡みついているタトゥーの上半分が見えた。
双頭のヘビはボスである者だけのシンボルだった。
神父はすぐに背中を隠すように素早く身を翻すと、トノスカの腕を掴んでひねった。
トノスカが激しく床に叩きつけられると、神父は素早く祭壇裏へ逃げた。
倒れているマカに寄り添っていたペスカトーレは、神父を追いかけようと立ち上がったが、トノスカが床に倒れたままでペスカトーレに叫んだ。
追うな!!
トノスカは町の人たちに神父の背中のタトゥーを半分でも一瞬ではあったが、何人かには見せることが出来たと思ったし、教会の外までペスカトーレが一人で神父を追うことは危険だと判断した。