Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


トノスカとマカ 16

親たちはもう自分たちのおしゃべりに戻っていて、誰もアーシャンを気にかけていないのを見てから、アーシャンは静かに教会を出た。

トラックに戻ると、アーシャンは言った。

あと5分くらいで説法が始まるよ。中は町の人たちで満員だ。

トノスカもマカも、ペスカトーレも、緊張した面持ちで頷いた。
そんなにゆっくりはしていられない。ポカからいつストロベリーのチンピラたちがキースランドに着くかわからない。
1時10分になったら、行くことに決めた。

1時7分になったとき、トノスカはゆっくりとトラックを教会の裏口につけた。
もうすでに神父は祭壇で説法を始めているはずだ。

いいか、行くぞ。

トノスカが3人を見て言った。

3人が頷いた。
トラックを降りると4人は足早に教会の裏口に忍び寄り、トノスカが木のドアに手をかけた。
鍵がかかっていたら壊して侵入するつもりだったが、鍵はかかっておらず、ドアは簡単に開いた。
教会の中に入ると小さな階段があり、そこを上がった踊り場から2階へ続く階段と、一階へ入る扉があった。
トノスカは後ろにいるアーシャンに小声で聞いた。

1階だな?

アーシャンがうなづくと、トノスカはゆっくりと扉を開けた。
小さな部屋があり、内装は簡素で、テーブルと椅子が2脚、あとは壁に十字架がかけられているだけだった。きっと、この部屋で信者たちの相談に乗ったりしているのだろう。

トノスカは部屋の中のもうひとつの扉を開けると、そこは薄暗い祭壇の舞台裏だった。
舞台裏にはいくつかの椅子や、祭壇に飾るためのブロンズのキリスト像や張り付けにされたキリストの油絵などもあり、埃を被っていた。きちんと整理されているが、空気がやけにカビ臭く冷たく重かった。
舞台裏と祭壇の間は厚いカーテン幕で仕切られており、カーテン幕の向こうから神父が説法している低い声が聞こえた。

私たちの罪を神は存じているのです。神は私たちの行いをいつも見つめて下さっています。

トノスカは振り向いて一人一人を見た。

マカはトノスカを睨むような目でうなずいた。

ペスカトーレはトノスカにニヤッと笑ってうなずいた。

アーシャンはトノスカの目をじっと見つめてうなずいた。

4人は懐から銃を出した。
4つの銃はトノスカとマカが準備した。
コーヒーショップの親父に調達を頼んだのだ。
コーヒーショップなら、二人はよく昼食を食べに行くので見張りに怪しまれることはなかった。

トノスカはカーテン幕の隙間から祭壇を見た。
祭壇中央には大きなキリスト像が壁にかけられており、その前に演説台が置かれて、その演説台に手を乗せて神父は演説していた。
清潔な神父服に身を包み、後ろに撫でつけた黒髪はツヤツヤとしており、穏やかな声で静かに信仰の尊さをみなに語りかけている。
その声は艶があり、柔らかく、聞いていると引き込まれてしまうような力があった。

トノスカたちがいる祭壇裏からは神父の背中のあたりは見えたけど、顔はちょうど死角になって見えなかった。
客席は見えなかったが、みな真剣に聞き入っている雰囲気が感じられて、ときおり誰かの咳の音が聞こえるのと神父の声以外はしんと静まりかえっていた。

隣人を愛し、神を敬うことこそが幸福なのです。

トノスカはカーテン幕を開けると、祭壇の真ん中にいる神父に向かって無遠慮にズカズカと歩いて行った。
そのあとに、マカ、ペスカトーレ、アーシャンが続いた。
突然祭壇に現れた男たちに町の人たちは驚いてざわめいた。

神父は上品に黒い髪をオールバックに撫で付けていて、鼻筋の通ったハンサムで穏やかそうな紳士だった。
神父は、突然祭壇に入って来たトノスカを見ると、誰も気づかないほどの一瞬だけわずかに口を歪めて、それから柔らかく微笑んで言った。

どちら様か、存じ上げないのですが、ご相談ならば、説法が終わったあとにしていただけますか?

トノスカは何も言わずに神父の眉間に銃を突きつけた。
観客席から、ひっ!といくつかの悲鳴が上がった。
そしてトノスカは言った。

おい、おれたちがここに来るとは思わなくて面食らったか?一瞬素の顔が見えたぜ。
お前のことだから、おれたちの顔はもう写真か何かで見て知ってるんだろう?

神父は落ち着いていた。

神父はトノスカにでは無く、町の人たちに体を向けると微笑みを絶やさずにゆっくりと言った。

みなさん、大切な説法の途中ですが、今日はこれで終わりにさせていただきます。
どうか、落ち着いて、お静かにお帰り下さい。
私は大丈夫です。

町の人たちはそれを聞いて、ざわざわしながらお互いの顔を見渡したりして、何人かが恐る恐る席から立ち上がった。

その途端に、観客席の後ろの壁にあるステンドグラスが、パキャーーーン!と派手な音を立てて砕け散った。
人々から悲鳴が上がる。

おい!!動くじゃねえ!!

マカが叫んだ。

マカが下に人の立っていないところを狙って撃っていた。

マカは銃を構えたまま、もう一度叫んだ。

一人も外に出るな!
席に座ってろ!!

いくつかの甲高い悲鳴が上がり、子供たちの泣き声も聞こえた。
マカは立ち上がった人たちに銃を向けて、銃で椅子を指して座るように威圧した。
立ち上がった人たちは恐怖に顔をひきつらせ、慌てて元の席に戻った。

トノスカが銃口を神父に突き付けたまま言った。

おい、お前の化けの皮をはいでやる。服を脱げ。

神父はそれでも落ち着き払っていた。

あなた方の望みは何ですか?
お金が欲しいならそこのお布施箱に今日のみなさんからいただいたお布施が入っています。
みなさんには申し訳ないが、どうぞ持って行きなさい。
そして、どうか町の人たちを解放して下さい。

トノスカも落ち着いて言った。

お前はおれたちがなぜここにいるか、もうわかってるだろう?
さっさとその下らねえ司教服を脱げよ、クソ野郎。

いいえ、お断りします。
あなたが何故私の司教服を脱がせたいのかわかりませんが、神の前で司教服を脱ぐということは、神の御心に背くことになります。
いくら脅されても、私は司教服を脱ぎませんよ。

神父はそう言って、神父らしく微笑んだ。
神父としての立派な態度だった。

トノスカは神父の背後にいるペスカトーレに目で合図した。
ペスカトーレはいきなり背後から神父の襟首を掴むと、強引に司教服を剥ぎ取ろうとした。
しかし、神父はとても素早くなめらかな動きで体を反転させ、同時にペスカトーレの手首を掴み、ねじった。
その動きは側から見てるとまるで子供をあやすときのように優しく見えたが、内実、凄まじい凶悪な力だった。
ごきり、とペスカトーレの手首が折れる音が近くにいたトノスカには聞こえた。
ペスカトーレはたまらず、声を上げて神父の襟首から手を離した。
マカが町の人たちに銃を向けたまま、アーシャンに言った。

アーシャン!!


















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