トノスカとマカ 15
- カテゴリ:自作小説
- 2024/08/15 09:43:35
それがアーシャンの知るストロベリーの最大の秘密だった。
次の日の朝、アーシャンはペスカトーレのレストランでみんなにこのことを話した。
トノスカが言った。
マジかよ。。。
そうか、あの神父はおれも知ってるが、なぜだか油断できない目つきのやつだと思っていた。その理由が今はっきりしたぜ。
マカも言った。
ああ、、そうだな、おれもやつを立派な神父ぶっているが、なぜか気に入らねえと思っていたぜ。
ネオプロテスタントっていうのも、うさんくせえしよ。
ペスカトーレは神父を知らなかった。
わかった。じゃあ、その神父がストロベリーのボスだってことを町の人たちにバラせばいいのか?
どうやるんだ?
アーシャンが言った。
うん、それを君たちに相談したいんだ。
何か決定的な証拠でもあればいいんだろうけど。
キースランドの人たちは神父のことを信じ切っている。
ぼくは今までキースランドに住んでいて、それをよく感じるよ。
4年前に教会が出来てから、今では町の半数以上の人たちが教会の信者さ。
だから、ただ神父がストロベリーのボスだ、なんて言ったって誰も信じないと思う。
トノスカが言った。
そうだな。
で、そのジラフってやつは今、どうしてるんだ?
うん、ジラフは大学在学中に国の徒競走選手になって、世界大会にも出場してメダルも獲ったよ。でも、20代半ばでケガをして引退したんだ。
それから今はメントスの大学でコーチをしているよ。
でも、例えジラフが神父のことを証言したとしても、誰も信じないだろうと思う。ジラフが神父の隠し子だってことさえ、誰にも知られていないんだから。
それに、ぼくはジラフを巻き込みたくないんだ。
トノスカが言った。
秘密警察に知らせるのはどうだ?
アーシャンが言った。
いや、やつらは今ぼくたちに四六時中張り付いてる。ぼくらがボスの秘密を握ってることを知らなくても、ぼくらが秘密警察に近づくことをやすやすと見逃さないと思うよ。
マカが言った。
じゃあ、神父本人に言わせればいいじゃないか。
ペスカトーレが聞いた。
どうゆうことだ?
そんなこと本人が言うわけがないだろう?
マカが言った。
言わざるを得ない状況に追い詰めるのさ。
それも町のみんなが見てる前でな。
マカは作戦をみんなに話した。
とても危険だったけど、それしか方法は無かった。
マカは見たもの読んだものを全て覚えてしまう異常な記憶力があった。
マカの記憶を元にアーシャンがザブンが書いたようにヨレヨレとした小さな字で紙に書き込んだ。黄色い紙はなかったので、仕方なく白い便箋に書いた。
もちろん、アブブモカカを精製する時間を4時間から1時間に変えたり、よくわからない薬品の分量を2倍にしたり、要所要所の数字や順序を変えた。
しかし、なるべく原料の名称などはほとんど名称を変えずに書いた。
4人は顔に青い痣のある男の目を思い出していた。彼らに中途半端なうそは通用しない。
1時間以上かけてニセモノのレシピを完成させた。
使うかどうかはわからないが、とにかくあった方が良いと考えた。
それから、便箋を小さく折りたたんで、何度も広げて閉じてを繰り返して、ヨレヨレの使い込まれたレシピのニセモノを完成させた。
次の日から土曜日の夜まで、4人は毎日ペスカトーレのレストランに集まった。
その日から、トノスカとマカは毎日自分たちのトラックでペスカトーレの店に行くことにした。
トラックは当時高級品だったけど、羊肉を運ぶのに必要で、貯めた金で5年前に買ったものだった。
見張りのチンピラたちに、毎日交換条件の相談をしてると思わせたかったし、作戦の細かい部分も話しておきたかった。
日曜日の午前中、トノスカとマカはいつものようにトラックでペスカトーレの店に行って、トラックを馬小屋に入れた。
ペスカトーレはまだ馬を持っていなかったから、車庫として使うのにちょうどよかった。
アーシャンはすでに来ていて用意が出来ていた。
4人は馬小屋に入った。
4人がいつもと違う動きをしていることを怪しまれるので、笑ってしゃべりながらダラダラと小屋に入り、小屋の扉を閉めた途端に4人は素早くトラックに乗り込んだ。
トノスカはすぐにエンジンをかけると、馬小屋の馬の出入り口をぶち破って、外へ飛び出した。
トラックのサイドミラーでチンピラたちがあわてて隠れていた民家の陰から出てくるのが見えた。
トノスカは猛烈な勢いでトラックをキースランドに向けて疾走した。
スキをつかれたチンピラたちは、トノスカたちを追いかけようと馬に乗ったが、馬たちは突然出てきたトラックに驚いて、言うことを聞かなかった。
そうしてるうちにもトノスカたちのトラックは土煙を上げて、どんどんキースランドに向かっていた。
チンピラたちはストロベリーの幹部たちに知らせる術は、自分たちが馬に乗って幹部たちがいるキースランドに戻るしか無かった。
当時は電話もあったが、ポカの町では日曜日は電話呼び出し所が休みだった。
それもトノスカたちの作戦のうちだった。
トノスカたちはストロベリーのやつらのスキをつくことに完全に成功した。
すでに昼食を終えた大勢の町の人たちが教会の中で説法が始まるのを待っているはずだ。
トラックを目立たないようにバーの後ろに停めると、アーシャンが一人で教会に行って様子を見てくることにした。
この町に住んでいるアーシャンなら教会に入っても町の人たちに怪しまれることは無いからだ。
もっとも、ポカにいるはずのアーシャンがキースランドにいるところをストロベリーのやつらに見られたら、それでバレてしまうが、ストロベリーのやつらは絶対にミサに来ないと踏んでいた。
もちろん、神父以外は。
アーシャンが教会に入ると、中はもう満員で、椅子に座れずに立っている者も何人かいた。
神父はまだ祭壇におらず、説法は始まっていなかった。
どうゆう風の吹きまわしです?
アーシャンは答えた。
いやなに、私は無神論者ですが、これほど町の人たちに信頼されている神父の説法を一度聞いてみたくてね。
先生は勉強熱心ですな!
いつも、何時から説法が始まるのをですか?
アーシャンが聞いた。
そうですな、だいたい1時には始まりますよ。
教え子の親とひとしきり話すと、一人の親が、先生、どうぞ。と、自分の座っていた席を譲ってくれようとしたが、アーシャンは丁寧に断って、もといた壁ぎわに戻った。
壁にかかってる時計を見ると、12時55分だった。
アーシャンは少し、そこにいて、様子を見た。
親たちはもう自分たちのおしゃべりに戻っていて、誰もアーシャンを気にかけていないのを見てから、アーシャンは静かに教会を出た。
読んでいただいて、ありがとう〜(^0^)
どんな作戦かドキドキ。