Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


トノスカとマカ 14

この秘密はアーシャン以外、トノスカたちもこのポカやキースランドの町の人たちも、誰一人知らないことで、今まで誰にも言ったことも無かった。
口にすれば間違いなく命に危険が及ぶほどの秘密だった。

アーシャンが高等部の徒競走クラブで練習に明け暮れていたころ、徒競走クラブの一人の生徒がいつもアーシャンを目の敵にしていた。
いつも徒競走で一番だったアーシャンに対抗意識を持っていたのだ。
その生徒はジラフといった。
高等部の生徒たちからジラフは恐れられていた。
不良たちや町のチンピラたちでさえ、ジラフには手を出さなかった。
ジラフは転校生でいつも一人で誰ともつるまなかった。以前は一匹狼のジラフにケンカを売るやつらが多かった。ケンカになったらジラフは相手が何人でも徹底的にやっつけた。ある時など、6人の不良とケンカをして、3人までやっつけたけど、さすがにあとの3人にコテンパンに叩きのめされた。
しかし、ジラフは病院で治療を受けたその帰り道に残りの3人のそれぞれの家に行って、一人一人を順番にやっつけて、結局全員を病院送りにした。
ジラフはケンカした相手を必ず病院送りにするのだ。

ある時、アーシャンがみんなが帰ったあとも一人で練習していると、ジラフがやってきて言った。

おい、アーシャン、勝負しようぜ。

ジラフが話しかけてくるなんて珍しかった。
二人は100メートル走の競争をした。アーシャンが勝つと、ジラフは悔しそうに地面を殴った。

おい、もう一回勝負しろ。

また走ったが、今度もやはりアーシャンが勝った。

ジラフは本当に悔しそうに帰って行った。

次の日からジラフは毎日、夕方の誰もいないときにアーシャンに勝負を挑んできた。
アーシャンはずっと勝ち続けていたが、少しづつジラフに追いつかれそうになっていった。
ジラフは毎朝、誰よりも早く来て一人で練習していたのだ。
ある日の夕方、とうとうジラフが勝った。
その日から、徐々にジラフが勝つことの方が多くなっていった。
それからも毎日、二人は夕方に勝負した。
それは二人が高等部を卒業する半年前まで続いた。
その日は、3本走って、アーシャンが1回、ジラフが2回勝った。
走り終わると、いつも何も言わずに帰るジラフが、その日は珍しくアーシャンに言った。

おい、めし食いに行こうぜ。

アーシャンはジラフに連れられて町のバーに入った。
今はもう店主が亡くなって無くなってしまったキャンパーというバーで、当時のポカの町ではけっこう流行っていた。ジラフは顔なじみらしく、店主がジラフに話しかけた。

よう、ジラフ。そいつがアーシャンか?

ジラフはそれには答えないで席に着くと、サラダをふたつくれ。と、ぶっきらぼうに言った。
店主が持ってきてくれたサラダは鶏のささみの茹でたものや、干しぶどうや、ナッツがふんだんに入った山盛りのサラダだった。
ポテトスープと黒パンも付いてきた。

アーシャンはバーに入るのははじめてで、緊張していた。
ジラフはフォークでがつがつとサラダを食べながら、アーシャンに言った。

食えよ。うまいぞ。

アーシャンは、うん、ありがとう。と言って食べると、とても美味しいサラダだった。

二人はあっという間にサラダとスープを平らげると、ジラフが乱暴にナプキンで自分の口を拭きながら言った。

おい、アーシャン、ありがとうな。お前のおかげで、おれは速くなれた。おれは、来週から、メントスの大学に行く。奨学金がもらえることになったんだ。

アーシャンはジラフが自分に、ありがとう。なんて言ったことに驚いた。

メントスはポカからずっと南西にある大きな都市で、その大学に行くのはこの国の若い徒競走選手たちの憧れだった。
年に一度開かれるコンペティションには多くの高等部の徒競走選手たちが参加した。
アーシャンはその時すでに教師になろうと思っていたので、参加しなかった。上位の3名だけが、大学の奨学金を得て入学できた。
ジラフは全国2位だったのだ。
アーシャンはその後、高等部の花形である大会の卒業記念地区試合で1位になるが、そのときすでにジラフは大学に行っており、もしジラフも出場していたら、自分は1位にはなれなかっただろう。と、今でもアーシャンは思っている。

これでもう、あいつの世話にならなくてすむぜ。

ジラフは言った。
それからジラフが話してくれたことは驚くべき事実だった。

今から15年前の話だ。
キースランドの高等部にいた時、ジラフに母親はおらず、ポカの町のはずれの家に一人で住んでいた。朝食や夕食はいつもキャンパーで食べていた。
ジラフはドルコの生まれで、幼いときからいろんな町を母親と二人きりで、転々として生活してきた。ジラフが高等部の2年生の頃、母親は若いチンピラと二人で町から逃げた。
噂では母親はその後、ストロベリーに殺されたらしい。
ジラフはその後、父親に引き取られ、ポカに引っ越してきて、徒競走クラブに入ったのだ。
ジラフはネオプロテスタント教会の神父の隠し子だった。
つまり、ストロベリーのボスの息子だったのだ。
数多くいた妾の一人がジラフの母親だったのだ。

それからジラフはポカで一人暮らしだった。
神父は隠し子の存在を町の人々に悟られることをを恐れて、母親とジラフをドルコに住まわせなかった。神父はあくまで町の人たちに尊敬される神父としての表の顔を少しでも傷つけたくなかった。
もちろん、そんなことを高等部や町の誰も知らなかった。
神父はジラフをストロベリーの後継にしようと話をした。
ジラフを愛していたからではなく、神父はジラフが並外れて頭が切れる男だと見抜いていたからだった。
しかし、ジラフはそんな薄汚ねえギャングなんかのボスになるなんて、ごめんだぜ。反吐が出る。と言って、断った。
ジラフは自分がドラッグを売ったその金で養われていることが我慢できなかった。
しかし、自分で金を稼ごうにも当時のポカの町では高等部の若者を雇ってくれるところなど、どこにもなかった。
それで、ジラフはどうしてもメントスの大学の奨学金が欲しかったのだ。
これでもう、父親から養われる必要は無い。ジラフはそのことが何より嬉しかった。

ジラフはアーシャンに知っていることのすべてを話した。
ストロベリーのボスが自分の父親であること。
父親が表向きはドルコの教会の神父であること。

これはとても重大な秘密だった。
なぜなら、ストロベリーは国家秘密警察から追われていたのだ。
国家秘密警察は、ストロベリーがドルコで暗躍していた時代からずっと町が日に日に衰退していくことを必死で喰い止めようとしていた。
しかし、秘密警察はストロベリーのボスが誰かを突き止めることができずに、ストロベリーを壊滅に追い込むことが出来ないでいた。
ストロベリーのボスの姿を見たことがあるものは誰もいなくて、すべてが謎だったのだ。
結局、ドルコの町は廃墟になってヤク中の住処となってしまい、多くの町の人たちが職を失って、ドルコの町から去って行った。
ストロベリーがキースランドに移ってからも、秘密警察はストロベリーの壊滅に躍起になっていた。
もし、ストロベリーのボスが神父だと、町の人たちや秘密警察が知ったら、ストロベリーはキースランドどころか、この国にいられなくなるだろう。

それがアーシャンの知るストロベリーの最大の秘密だった。

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2024/08/13 08:17
せんちゃん、

わくわくしてくれて、嬉しいなり〜(^0^)
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2024/08/12 16:54
形勢逆転なるか?わくわくです!



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