トノスカとマカ 13
- カテゴリ:自作小説
- 2024/08/08 10:26:38
アーシャンはポカに帰ってくると、いつも実家に泊まっていた。
年老いた両親がいて、母親は認知症で、父親が面倒を見ていた。
アーシャンは母親が認知症になったとき、ぼくが実家に戻って母さんの世話をするよ。と、父親に申し出たが、父親はそれを断った。
おれが愛した女の面倒くらいおれがみるさ。お前がキースランドで立派に教師をしてるのがおれたちの誇りなんだ。大丈夫さ。戻って来なくていい。
息子が帰ってきたことが嬉しくて、父親はアーシャンが家にいる時はいつも二人で酒を飲んだ。
その夜、アーシャンがペスカトーレのレストランから夜遅くに帰ってくると、父親はまだ起きていた。
母さんが今日は調子悪くてな。
さっきまで眠れずにいたんだ。
母親はいつも9時くらいには寝たが、たまに眠れなくなってしまうときがあった。
父親と自分が出会ったころの20代だと思い込んでしまい、バーに行きましょう。今日はタマラたちも来てるし、パーティーだわ。と、はしゃいでしまうのだ。
もちろん、そんなパーティーは無いし、身体の弱くなった母親を夜中に連れ出すわけにはいかない。
そんなとき、父親は調子を合わせて、自分も20代のように振る舞う。
タマラのやつ、またスタッカートとケンカして今日はパーティーやらないらしいぜ。さっき電話でチロルが言ってたぜ。
まったくやつらはいつまでたってもガキのままだぜ。
タマラもスタッカートもチロルもみんな当時友だちだったやつらだ。
父親はその当時のしゃべり方で話した。
すると、母親は言う。
あら!タマラ、大丈夫かしら?私、電話してくるわ。
いや、今日はやめたほうがいいぜ。いつもみたいに泣いたりわめいたりするだけで、話しになんないぜ。明日になったら、タマラの気も落ち着くだろうから、明日ゆっくり話を聞いてやんなよ。
そんな調子で、母親をなだめて寝かしつけるのに父親は苦労していた。
今日はトノスカたちと飲んでたのか?みんな元気だったか?
二人でワインを一杯飲みながら、父親が言った。
アーシャンはステーキのことは話さず、うん、みんな相変わらずさ。と、答えた。
ペスカトーレのレストラン、一度行ったけど、あいつはすごいな!
あんな美味いものを食わせてくれるレストランはポカに他に無いよ。
母さんもすごく気に入っていたよ。今度はお前も一緒に行こう。
それからひとしきり世間話をして、父親は言った。
おれはそろそろ寝るとするよ。
お前はまだ寝ないのか?
うん、ちょっとやることがあるから、それをしてから寝るよ。
父親は、おやすみと言って、寝室へ行こうとして、立ち止まった。
アーシャン、最近キースランドのよくない噂を聞く。なんだってストロベリーが新しいドラッグを売り始めるとかな。
お前の学校は大丈夫か?
うん、こないだ1人スカッシュを持ってた子どもがいたけど、まだそれくらいだよ。
その子はスカッシュを買っただけでまだ使って無かったから、見つかってよかった。
父親が言った。
そうか、やつらは危険らしいから、お前も十分気をつけろよ。
わかってる。ありがとう、父さん。
実はアーシャンには一つ手があった。
しかし、それはかなり危険で、さっきトノスカたちに言うのはためらわれたのだ。
アーシャンはやつらを壊滅させる方法をひとつだけわかっていたのだ。
アーシャンはボスの正体を知っていた。
ストロベリーの隠れ蓑は宗教団体だった。
そのボスの表の顔は教会の神父でネオプロテスタントというキリスト教の一派を創立した。
ストロベリーがドルコからキースランドに来る一ヶ月前にネオプロテスタントの教会が町の真ん中に建てられた。
表向きはストロベリーのせいで壊滅状態になったドルコの町から仕方なく逃げてきた。という理由だった。実際に神父はドルコの町に教会を持っていたし、たくさんの町の人たちに慕われていた。
しかし、ストロベリーのやつらは教会にまでショバ代を払えと要求してきて、それを断ると今度は執拗な脅しをしてきた。そしてついに、先週ストロベリーのやつらに教会に火を放ったのだ。教会は全焼してしまった。
全て、神父の自作自演だった。
キースランドの町の人々はそんな神父に同情したし、神をも恐れず教会を燃やすほど凶悪なストロベリーに恐れをなした。
神父は穏やかで物静かだったが、その説法は多くの人を惹きつけた。そして、教会は多くの信者を得た。
そのお布施はストロベリーの財源の一部になっていたのだ。
しかし、ボスが神父になっていたのは、何より秘密警察から身を隠すためだった。
この秘密はアーシャン以外、トノスカたちもこのポカやキースランドの町の人たちも、誰一人知らないことで、今まで誰にも言ったことも無かった。
口にすれば間違いなく命に危険が及ぶほどの秘密だった。
はい、オーマイガーなのです〜!(^0^)