トノスカとマカ 11
- カテゴリ:自作小説
- 2024/08/04 08:51:47
よし、燃やしちまおう。
そう言ってトノスカはポケットをまさぐったが、マッチが無かった。どこかで落としてしまったようだ。
マッチ持ってるか?
トノスカはみんなに聞いた。
マカがポケットからマッチを出してトノスカに渡した。
その時、アーシャンが背後に誰かいるのに気がついた。
こんなところにあったのか。
見ると、ストロベリーの男たちだった。
トノスカとマカが昨日見た、穴を掘っていた5人の男たちだ。
トノスカとマカは固まった。
アーシャンとペスカトーレもそのただ事では無い雰囲気をすぐに察していた。
5人の男たちは、今、鍾乳洞に入って来たばかりようで、こちらに向かって歩いてきた。
二人の黒いコートの男の一人が言った。
お前ら、ブルーの仲間か?
顔に大きな青いあざがある男だ。
鍾乳洞の中は、天井に開いたいくつかの穴から光が差し込んでいたが薄暗く、男の目は影になってよく見えないので、どんな表情をしているのかわからなかったが、男の顔半分を覆っている大きな青いあざが妙に不気味に見えた。あざはきっと子どものころから彼の顔にあって、成長と共に彼の悪意が育つと共に大きくなったような、地図のような形をしていた。
トノスカは努めて何でもないふうを装って答えた。
いや、仲間じゃないぜ。
お前ら、ここで探し物をしているんだろう?探し物は見つかったようだな。
あざの男は歩きながらそう言って、トノスカたちの近くまで来た。
トノスカはすっとぼけた。
何のことだ?
あざの男はマカを指差して言った。
今お前が缶に隠したものだ。買ってやろう。
いくら欲しい。
あざの男はトノスカたちの返事も待たずにスーツの内ポケットから小切手を出すと、万年筆でさらさらと数字を書き込んであっさりトノスカに渡した。
見ると、都会の豪邸が土地付きで買えるほどの大金が書かれており、ちゃんとサインも書かれていた。
それで足りるか?
トノスカたちは、もしトノスカが足りない。と答えたら、男はいくらでも金を積むつもりなのはわかった。
トノスカが答えた。
こんな金を受け取る理由は無いぜ。あの缶はただのゴミで、おれたちはこの鍾乳洞を汚したくないから持ち帰ろうとしただけさ。
ここはおれたちがガキのころの思い出の場所だからな。
あざの男は、少し笑うと言った。
おい、お前とその男が昨日森でおれたちを見てたことを気づいてないとでも思ってるのか?
お前らは昔ブルーと繋がっていた。お前らはいつでもおれたちに見られていたのさ。
全てわかってる。
面倒は無しにしようじゃないか。
いくら欲しいのか、書け。
あざの男はそう言いながら、小切手帳とペンをトノスカに渡した。
いくらでも好きな値段で買ってやろう。
それで、お前らの安全も約束してやる。あとは全て忘れろ。
トノスカはマカから缶を受け取ると小切手に何も書かず、缶と小切手帳とペンを男にすんなりと渡した。
金なんかいらねえよ。
これはただのゴミだ。そんなに欲しけりゃくれてやるぜ。
トノスカはそう言って、素早くみんなに目で合図すると、鍾乳洞を出ようと歩き出し、3人もそれに続いた。
しかし、あざの男は横を通り過ぎていくトノスカたちに言った。
待て。
トノスカたちが振り返ると、もう一人の黒いコートの男が銃をこちらに向けていた。
あざの男は、じっとトノスカの目を見てから、缶をひねってふたを開けた。
中はからだった。
トノスカは言った。
言っただろ?ただのゴミだって。
おい、お前なんで銃なんかおれたちに向けてんだ?しまえよ。
トノスカは銃を向けている男に言った。
銃を持っている男が言った。
なめやがって。。
あざの男が空っぽの缶を放り捨てて言った。空き缶はカンカンと甲高い音を立てて鍾乳洞の中に流れる小川にちゃぽっと落ちた。
おい、どこに隠した?さっき言ったはずだ。面倒は好きじゃない。
何度聞かれても最初っからそれは空き缶さ。いい加減にしないとおれも怒るぜ。
銃をしまえって言ってんだ。
トノスカは言った。
あざの男が言った。
おい、いいか。勘違いするなよ。はっきりさせておこう。おれたちはお前たちと取り引きをしたくて、それを買おうって言ってるんじゃないんだ。
今すぐに皆殺しにして、奪い取っても構わない。簡単なことだ。
いいか、おれは温情で言ってるんだ。レシピを渡せば、お前らを無事にここから出して帰してやる。
いいか、もう一度だけ言うぞ。
レシピを渡せ。
あざの男はじっとトノスカを見つめていたが、トノスカはしっかりと男と目を合わせたまま、落ち着いた口調で言った。
おい、お前の方こそ勘違いするな。おれもはっきり言ってやろう。今、主導権があるのはお前らじゃない。おれたちだ。
いいか、お前はおれたちがどこにレシピを隠したかわかっていない。おれたちの誰か一人にでも危害を加えてみろ。おれたちは拷問されても絶対にレシピの在り方を明かさないぜ。おれたちが教えない限り、絶対にわかりっこない場所に隠したからな。
おれたちが教えない限りお前らが必死こいて探してるレシピは永遠に見つからない。
よく考えてものを言うんだな。
全てハッタリだった。
さっき男たちが鍾乳洞に入ってきた時、マカが一瞬でどこかにとっさにレシピを隠したのはわかっていたが、トノスカもペスカトーレとアーシャンも、マカがどこに隠したかわかっていなかった。もしかするとそれはマカのズボンのポケットかも知れなかった。
もしそうなら、マカのズボンをちょっと探られたらすぐにバレることだった。
しかし、今、レシピを渡したら、必ず4人とも確実に殺されてしまうだろう。
金で買おうとしてるのは間違いなく嘘だ。
レシピを渡した瞬間に殺される。
やつらは探す手間を省きたいだけだ。
4人をこの洞窟から無事に帰らせるほどストロベリーの連中は甘くないことをトノスカはわかっていた。
今、レシピしか、トノスカたちに武器は無かった。
読んでくれて、ありがとうなり(^o^)