トノスカとマカ 10
- カテゴリ:自作小説
- 2024/08/02 09:02:30
それが今、マカが手にしている黄色い3枚の紙だった。
。。。。。。
ザブンは実験用のねずみに気化させた成分を薄めたものを吸わせてみると、ねずみはキィキィと嬉しそうな鳴き声を上げて2日間もの間不眠不休で全速で滑車を回し続けてから、突然コロリと横に倒れて死んだ。
ザブンはそれを見てやはりこの液体を元にして新しいドラッグを作れると考えた。
そして、ザブンは幼馴染のエブラハムに新しいドラッグでの儲け話を持ちかけたのだ。
これを1000分の1程度に薄めれば、人間が使える上等なドラッグになると言って、実際に薄めたものを二人で試した。
その効果は素晴らしく、少し吸うだけでヘロインやスカッシュよりもずっと強力で長続きする快感を得られた。
ザブンは世界一美味いものという意味で好物のステーキという名前をそのドラッグに名付けた。
しかし、ザブンは自分が作ったステーキをやり続けて中毒になってしまい、その濃度をどんどん濃くしていき、あげくの果てに、死んでしまった。
その頃になるとエブラハムもステーキの中毒になっていた。
幼馴染のザブンが死んだことよりも、ザブンがいないともうステーキが手に入らないということしか考えられなかった。
ザブンは用心深く、レシピを小さな金庫に入れて、自宅では無く、研究所の自分のロッカーの中にしまっていた。
そのことをエブラハムはザブンから聞いていた。
エブラハムはある日の夜中、研究所に忍び込んで、ザブンのロッカーを壊し、金庫を盗み出した。
金庫を破壊して、中のレシピを手に入れると、薬の知識など何も無いのに、キースランドの図書館に通って薬の本を読み漁り、執念でステーキの作り方を理解した。
それから、エブラハムは今度は夜中に銀行へ忍び込み、金を盗んだ。
アラパッカまでアブブモカカを取りに行くためだ。
そのころ、エブラハムは中毒症状で夜も眠れなくなっていた。
頬はこけて目の下に濃いくまができて、いつも目玉が充血して攻撃的にぎょろぎょろしていた。
呼吸が浅く、心臓の鼓動が早く、いつも腹を下していた。
一刻でも早くステーキを吸いたかった。
エブラハムはアブブモカカのことも図書館で調べ、その花の採取の仕方を覚えた。
アブブモカカは素手で触れると皮膚がただれてしまうのだ。
エブラハムは銀行から盗んだ金を使って、アラパッカの海岸で取れるだけのアブブモカカを取り、キースランドに戻った。
早速、ステーキを作ってみたが、やはり最初はうまく液体を抽出することが出来ずに苦労した。
しかし、三日三晩、休まずに試作を繰り返した結果、ザブンが作ったものと同じ、純度の高いステーキを精製することが出来た。
やっとステーキを吸うことができたエブラハムは、2週間ぶりにぐっすり眠ることが出来た。
次の日の朝、ようやくこれでしばらくの間はステーキを吸える。と、エブラハムは落ち着きを取り戻した。
ステーキを吸っていれば、呼吸も落ち着き、腹も下すことも無く、健康的な一般人と同じ、いや、それ以上の多幸感と充足感を持って生きていけた。
しかし、エブラハムはアラパッカまでの高い旅費のことを考えると、そう何度もアラパッカまで行くことは出来ないと不安になった。
それに、もし自分一人でステーキを売って、それがストロベリーにバレたら、大変なことになる。
ストロベリーのチンピラたちが組織に内緒でドラッグを売ることは掟で禁じられていた。
必ず組織に売り上げを上納する掟があったのだ。
それはもちろん最下層の若いチンピラのエブラハムも同じことだった。
掟を破ったものは、そのほとんどが殺されている。
そこでエブラハムは大胆にもストロベリーと交渉しようと考えた。
一生遊んで暮らせるほどの莫大な金と、自分がいつでもストロベリーからステーキを無料でもらえるという条件で、レシピのコピーを売ろうと考えたのだ。
もし、彼らが渋ったら、CCBにレシピを売ると脅すつもりだったし、実際にその方が条件がいいならCCBに売って、ストロベリーを裏切り、CCBに入ることも考えていた。
その頃のエブラハムにはそれがどれだけ危険な行為か判断できる冷静さなど全く無くしてしまっていた。
ステーキさえ吸っていれば、ストロベリーなんか全く怖くなかった。
エブラハムは肌身離さずレシピを持ち歩き、絶対に安全な隠し場所を探していた。
しかし、あの夜、ステーキを吸って自分が万能の神のように錯覚していたエブラハムは、CCBの誰かに少しステーキのことを匂わせてどんな条件を出すか聞いてみようかと思ってポカの町のキンバまで来ていたのだ。
そして調子に乗ってステーキを吸ってる状態で更に酒も飲み、判断など出来る状態ではなくブルーに口を滑らせてしまったのだ。
そして、エブラハムを殺してステーキのレシピを手に入れたブルーはエブラハムと同じくステーキで巨額の金を手に入れることを考えて、レシピを一旦誰にも気づかれることの無い秘密の鍾乳洞に隠してから、この町から逃げたのだ。
結果はご存知の通りだ。
。。。。。
よし、燃やしちまおう。
そう言ってトノスカはポケットをまさぐったが、マッチが無かった。どこかで落としてしまったようだ。
マッチ持ってるか?
トノスカはみんなに聞いた。
お忙しい中、楽しく読んでいただいて、ありがとう〜^_^