次の日の朝、一番に目を覚ましたのはアーシャンだった。
トノスカたちはまだソファーや床に寝転がって寝ている。
昨日の夜、酒を飲んだあとにみんなでレストランの2階にあるペスカトーレの部屋に上がって寝たのだ。
アーシャンは寝ている3人を見た。
それから、1階のキッチンへ行って人数分のオムレツを焼いた。
焼きあがるころに、マカが起きてキッチンへ下りてきた。

何やってんだ？アーシャン。

目をこすりながら、マカが聞いた。

オムレツ焼いてんのさ。
マカ、トノスカとペスカトーレを起こしてくれ。

アーシャンはオムレツを焼き終えると、パンとミルクを添えてレストランのテーブルに並べた。

トノスカたちがあくびをしながら降りてくると、ペスカトーレが言った。

うまそうな匂いがすると思ったら、アーシャンが朝飯作ってたのかよ。アーシャンがオムレツ焼けるなんて知らなかったぜ。

4人はテーブルについて、オムレツを食べると、コーヒーショップのおやじが作ったあのオムレツと同じ味だった。
アーシャンはキースランドに行ってからときどきあのオムレツが無性に食べたくなって、何度もオムレツを作っているうちに、いつしか自分でコーヒーショップのおやじのオムレツと同じものを作れるようになっていたのだ。

それから、身支度をすませると、4人は森へ出かけた。
ペスカトーレはレストランのドアに休業のフダをかけた。

森へ着くと、まだ朝早いために森の空気はひんやりと冷たく朝もやがかかっていた。
昨夜のワクワクした気持ちよりも、凶悪なギャングたちの狙ってる獲物を横取りする緊張感で4人とも無言で森の中を歩いた。
洞窟の前に着くと、トノスカがみんなを見て、行くぞ。と目で合図した。

トノスカがつる草をかき分けて穴に入ると、後にマカ、ペスカトーレ、アーシャンと続いた。
最後に入ったアーシャンは丁寧につる草で洞窟の入り口を覆い直した。
15年前、四つん這いで洞窟に入れたけど、今はもうほとんど腹ばいになって侵入するしかなかった。
中へ入ると、頭をぶつけそうになりながらも何とか中腰になって進めた。
記憶にあるより早く鍾乳洞までたどり着くと、鍾乳洞は15年前とほとんど変わりなかった。
4人は久しぶりに見る鍾乳洞の風景に懐かしくなって、ペスカトーレが言った。

全然変わってねえな。ガキの頃を思い出すぜ。
たぶん、ブルーは水晶のあったところに隠したんじゃないか？

4人は水晶のあった岩のくぼみを探してみると、マカが岩のすぐ隣を流れている小川の中から石で固定されたビーンズの缶を見つけた。
どこでも買える安い豆の缶で、密閉式のフタが付いているのが便利で町の母親たちはよくそれに石鹸水を入れて使っていた。
缶を開けると、中に小さく折りたたまれた数枚の黄色い紙を見つけた。

あったぞ。

3人がマカの手元を覗き込み、マカは黄色い紙を広げた。
広げると紙は3枚あった。
やはり、そこには小さな字でステーキのレシピが書き込まれていた。

4人が読んでも、専門的なところはよくわからなかったが、原料はアブブモカカと呼ばれる猛毒の花だった。
レシピの最後にサインが記されていて、ザブンと読めた。

ペスカトーレが言った。

アブブモカカって、周りに生えている植物をみんな枯れさせる猛毒の花だぜ。
アラパッカの海沿いにたくさん生えてて、その辺りは誰も近寄らない。

アラパッカとは、ペスカトーレがいたアストーレの北東にある海沿いの小さな町だった。

トノスカが言った。

誰か、このザブンってやつを知ってるか？

しかし、誰も聞いたことのない名前だった。

当時、この国の南部地方で、大変な疫病が流行っていた。ポカやキースランドなどの北部にはまだ広がっていなかったが、政府はその特効薬を早急に開発しなければいけなかった。
キースランドの西にあるパッキャオという町の製薬研究所が政府からの依頼を引き受けることになった。
研究チームはアブブモカカ中毒になった際の麻痺効果に目をつけた。
当時の医療はより強い薬で痛みを消せば、それが病気が治ったと見なされていたからだ。
その開発途中、アブブモカカを精製する過程で偶然、純度の高い液体が生まれた。
その液体は気化しやすく、研究チームの一人が誤って気化した成分を吸って危篤になってしまった。
開発チームはその液体は危険すぎるために、その製造過程を極秘にして、製造過程の記録を全て破棄した。そして、やはりアブブモカカは疫病の特効薬になり得ないと判断して、アブブモカカを原料に使うこと自体も中止する決定にした。
しかし、その液体をドラッグに出来るかもしれないと興味を持った開発チームの一人の若い男が破棄される直前の製造過程記録を紙に書き写したのだ。
それが今、マカが手にしている黄色い3枚の紙だった。