トノスカとマカ 1
- カテゴリ:自作小説
- 2024/07/15 01:05:31
血がしたたって、ぽたぽたと地面に落ちていた。
土の地面にいくつかの丸い血のあとが黒いシミになっていた。
吊るされて皮を剥かれた羊は目を見開いて、まるで自分が死んでいることを信じられないみたいな表情をしている。
トノスカはマカに言った。
昨日の夜、キンバで男が殺されたって。
キンバとはこのポカの町の外れにあるバーだ。
エブラハムとかいうキースランドの男らしいよ。
へえ、やったのは誰だ?
ふたりとも話をしながら、羊の解体を続けている。
炎天下で汗びっしょりだ。
ブルーがやったらしい。
警察がきた頃にはもう逃げて、今はこの町にいないそうだ。
そうか、たしかあいつは前にも人を殺してるって噂だよな。
うん、19のときに、ハナマカンのバーでつまらないケンカの末に殺したって話だ。証拠が無くて、保安官は逮捕できなかったらしいけどな。
マカは羊の左脚の大腿骨をゴリゴリとノコギリで切りながら言った。
あいつはいつか誰かに殺されるだろうよ。
それから解体を終えたふたりはジムを飲みながら、ベンチに座った。
二人が並んで座っているとまるで似てなかったけど、トノスカとマカは双子の兄弟だった。
それで、ブルーはどこに逃げたんだ?
マカが聞いた。
それが、誰にもわかんないんだよ。あいつのおふくろさんやチェリーブロッサムも知らないらしいよ。
もっともチェリーブロッサムがブルーと別れたのはもうずっと前のことだし、おふくろさんも今は療養所に住んでて、ブルーからは何年も電話さえ無いらしいからな。
殺されたエブラハムって男はどんなやつだったんだ?
それが、キースランドのギャングの一員なんだよ。
ストロベリーっていうギャング団さ。
ストロベリーっていったら、相当ヤバい奴らだぜ。こりゃあ、ブルーもマジでおしまいだな。
それから、1週間後にブルーはこのポカの町から南にあるキースランドへ続く道端に死体になって捨てられているのが発見された。
そのニュースはこの小さなポカの町にあっという間に広がって、もちろん、トノスカとマカの耳にも入った。
ブルーの両手両足すべての指が切り落とされていた。
拷問の末に殺されたようだ。
少年の頃のブルーを知ってる二人としては複雑な思いだったが、その時はまだトノスカとマカにとって関係の無いことだった。
ふたりが店に入ると、カウンターにチェリーブロッサムがいるのを見つけた。
ふたりはチェリーブロッサムの横へ行って声をかけた。
チェリーブロッサムは酔っていた。
おい、久しぶりだな。
ブルーのことは残念だったな、大丈夫かい?
マカがチェリーブロッサムに言った。
私には関係無いことだわ。
あいつは殺されて当然だったし。
そうか、君が平気ならそれでいいんだけどさ。
マカは心配そうにしていた。
マカにとって、チェリーブロッサムは幼い頃から知ってる妹のような存在なのだ。
ブルーと付き合い始めたころ、ブルーがどれだけ下らない男か知ってるマカはチェリーブロッサムを何度も諭そうとしたけれど、チェリーブロッサムはマカの言うことに一切耳を貸さなかった。
でも、ろくにポカに帰って来ないで、詐欺やドラッグの売買や盗みなどヤバいことばかりをして、チェリーブロッサムにも会うたびに手を上げるブルーに、3年前にようやく愛想を尽かしたのだ。チェリーブロッサムはそれでもブルーをまだ愛していたのか、いつも酒ばかり飲んでその日出会ったような適当な男と逢瀬を繰り返して、自暴自棄の生活が続いていた。
マカがチェリーブロッサムを心配して話をしていると、店の扉が開いて、黒いスーツに身を固めた大柄な男たちが入って来た。
男たちは3人を囲むように立ってチェリーブロッサムに話しかけた。
あんたがブルーの女か?
チェリーブロッサムは眉間にしわを寄せてすごく不機嫌な顔をして答えた。
誰よ、あんたたち?
おれたちが誰でもいい。
あんたがブルーの女かどうか聞いてるんだ。
なんでそんなことあんたたちに偉そうに聞かれなくちゃなんないのよ?!
あいつとはとっくに終わってるわ!
それがなんなの?!
ブルーが死ぬ前に何か聞いてないか?
知らないわよ!
3年前に別れてから話したことなんて無いわ!
チェリーブロッサムはイライラしていた。
男たちはそんなことを気にせずに質問を続けた。
ブルーと会っていないのか?
しつこいわ!
会ってもないし、話してもないわ!
チェリーブロッサムの言ってることは本当だった。
質問していた男はじっとチェリーブロッサムの目を見ると、言った。
そうか、悪かったな。
あんたたちはブルーから何か聞いてないか?
男は今度はトノスカとマカに聞いた。
いや、おれたちはブルーとは親しく無かったから、何も知らない。
トノスカが答えた。
男はまたじっとトノスカとマカの目を見つめると言った。
そうか、わかった。
邪魔したな。
そう言うと、男たちは店を出ていった。
何よ、あいつら!気持ち悪い!!
男たちが出ていくと、チェリーブロッサムが吐き捨てるように言った。
トノスカとマカは脇にじっとりと汗をかいていた。
ふたりは男たちはストロベリーのやつらだとわかった。首すじにストロベリーのマークである小さな剣のタトゥーが入っていたからだ。
このポカの町はCCBのシマで、この町にストロベリーのやつらが来ることは滅多に無かった。
ちょうどこのチャパドというバーがポカのメインストリートの端っこだった。
こんなところにまでストロベリーのやつらが来るなんて、よっぽどのことがあったんだろうとトノスカとマカは思った。
後日、ふたりが羊肉を業者に売りに行ったとき、業者の男からその「よっぽどのこと」を聞いた。
読んでいただいて、ありがとう^_^
うん、そうだね〜^_^
ウェスタンの感じと、ヨーロッパの深い森のある町の感じを混ぜたような印象なの。
んで、時代は2、30年代だと思うけど、でも、そんなに厳密でないのでござる。
ドキドキしながら読みました
よっぽどのこと、、、?何だろう?
読んでいただいて、ありがとう(^0^)
それは良かったです!
このストーリーの舞台は、自分の中ではしっかり頭に描けていて、それを言葉に変換しているのですが、言葉だけで伝えるのって難しいですね。
これは映像にするのにも向いてるように思えます(^-^)
ケニーさんは情景描写が丁寧ですごく場の雰囲気が伝わってきます^^
良かった〜(^-^)
こうゆう小説ってさ、思い切りフィクションで、でも、完全なファンタジーではないから、実際にあり得そうな町を描いてるのね。
時代はかなり昔だけど。
んで、それを読者にどう伝えるかって、雰囲気でしかなくて、きっと難しいんだろうね〜。
まあ、自分がその世界に没頭してると、きっと伝わるだろうなっていうのが自論だけど。
気が向いたら、また読んでくださいな。
ありがとう。