自作小説倶楽部3月投稿
- カテゴリ:自作小説
- 2024/03/31 20:46:01
『マリア』
マリアは私のあこがれでした。蜂蜜色の髪に瑠璃色の瞳、そして白い肌。彼女とお茶をすれば狭い畳の間も豪華な宮殿になったり、おしゃれな邸宅になりました。私とマリアは花びらのお茶を飲み、おしゃべりをして、時々絵本を読みました。一番楽しかったのはマリアの衣装合わせです。古い型だったけどマリアはたくさんのドレスと小物を持っていて、ピンクやブルーだけでなく黒や真っ赤なドレスまであって、どれもマリアにはよく似合っていました。
たまに外に遊びに行くこともありました。マリアは外を嫌がったけど私がねだると最後には折れてくれました。彼女と花を眺めたり、暖かな日差しの小道を歩いた幸福な日々は忘れられません。
でもそれは唐突に終わってしまいました。あの後の記憶はぷっつり途絶えてどうしても思い出せません。どうして私は両親にマリアの行方を尋ねなかったのでしょう?
あの日、私たちは神社の階段を上がっていました。夏だったと思います。周囲が木に囲まれていたため山の上の神社の敷地は木陰が多くて夏でもひんやりしていました。近所の子供の馴染みの遊び場だったんです。
しかしその日、人の気配を感じて上を見ると階段の途中には見たことのない、汚れた服を着た大人の男の人が立っていました。いえ、私が恐れたのはその男の焦点の定まらない濁った眼でした。私が恐怖で固まっていると男は酔ったような、しかし大人の強い力のある足で階段を下りて来ました。男が私たちの前まで来た時、マリアは両手を大きく広げて男を睨みつけ、男から私を守るように立ち塞がりました。
それから、どうなったのかわかりません。気が付くと私は包帯で頭や手足をぐるぐる巻きにされて病院のベッドに寝かされていました。
マリアがどうなったのかわかりません。それどころか、私は彼女を忘れていたのです。どうしても、思い出さなくてはならない。そんな気がするんです。
義父によれば「マリア」は人形です。仕事人間らしく娘たちが持っていたものはほとんど覚えていないようですが、その人形のことは割とおぼえていました。もともと義父の妹の持ち物だったようです。それが最初の娘に誕生とともに譲られました。大きくなって、その娘は妹と一緒に人形遊びをしていたようです。
妻とその姉が事件に遭った時、人形を持っていたのでしょうが、義母も居ない今では確かめようがありませんね。変質者に突き飛ばされて一人が死に、妻が大怪我をするくらいだから人形も壊れてしまったのでしょう。
ええ、もちろん。妻の姉は普通の日本人で名前もマリアじゃありません。
事件の後、義両親も精神的余裕がなかったのでしょうが、少しでも妻の心を心配して欲しかったと思わずにはいられません。
もう少し整理なさるとよい短編になるかなあと、「それあなたの感想ですよね」的な意見をさせて戴きました
(-_-;)