Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


夢 (7)

しばらくそのまま休んで、呼吸が落ち着くまでだいぶん時間がかかった。

ようやく落ち着いてから、おれは額の汗をぬぐって、足のマッサージをしながら、穴の中を見渡した。

必死すぎて、何も気にしていなかったけど、もし、まだこの穴の中に別の熊がいたらどうしようと一瞬思ったけど、何もいなかった。
穴の中は思ったよりだいぶ広く、アパートの小さな一室くらいはあった。
熊は長年この穴に住んでいるようで、穴の底は滑らかになっていて、獣の匂いがした。
おれはこんな巨木にあいた穴ぐらに住むのも良いなあ。と思って、穴のふちに腰掛けて、木の下を眺めた。
相変わらず、木漏れ日が美しくのんびりした草むらには白い蝶が舞っていた。
穴の周りの木の幹や枝をよく観察してみると、穴の周りの枝にはたくさんの実がなっていて、多くはもう齧られていた。
きっと、さっきの熊の仕業だ。
木の実は赤くぽってりと丸っこくて、周りを透き通ったゼリーのようなもので覆われていた。
おれは手を伸ばして齧られてない木の実を一つもいだ。
すると、その果物を覆ってるゼリー状のものはふるふると小刻みに波打って、柔らかく震えた。
ガブリ、と大口でかじってみる。
じゅわっと口いっぱいに甘い汁が広がって、とてもジューシーで美味しい果物だった。
おれはいくつか食べて、それから4つくらいその果物をあちこちのポケットに入れた。
そこで初めておれは自分の格好に気がついた。
おれは大きなポケットがあちこちにたくさん付いた服を着ていた。
ポケットはそれぞれ色が違っていた。
鮮やかな赤や緑や青や黄色。チェックやペイズリー柄のポケットもあった。
しなやかなキャンバスのような生地で出来た襟の大きなクリームがかった白のシャツと、ゆったりした太めのくるぶし丈のズボンに、大きな色とりどりのポケットがたくさんついているのだ。
もうその服はあちらこちらが汚れていて、おれの汗もたっぷり染み込んでいた。
でも、汚れているのがまた服に味わいを出していた。
もう一つ果物を食べながら、しばらく熊の巣穴のふちに座ってぼうっとしていた。

なんとなく、、、、おれはそこから飛び降りた。

熊の巣穴から地面まではかなりの高さがある。
骨折してもおかしくないのに、なぜだかおれはあっさりと飛び降りてしまった。

すん、くるくるくる。。

とおれは前に転がりながらなんてことなく地面に着地出来た。

びぃ、ぴぃ、ぴぃ、ぴぃ、、

と鳥たちの鳴き声が聞こえる。


おれはこの円形の広場のような草むらからさらに森の奥へ進んでみようと思い歩き出した。。






ストランド様!聞こえますか!聞こえますか!?

おれは肩を叩かれて目覚めた。
おぼろげな視界の中には男がいて、おれの肩を強く叩きながら、大声で何か言っていた。

ストランド様、大丈夫ですか!?
私の声が聞こえますか?!

おれはおぼろげな意識の中でぼんやりとした視界の中にいるその男を見ていた。。

申し訳ありません。。
もう1週間以上もお姿が見えず、ルームサービスもベットメイキングも無かったので、大変失礼ですが確認をしに参りました。

男はピシッとした上等なスーツを着ていて、ほのかにポマードの香りがする。
おれは理解できずに、男の顔をぼんやりと見ていた。

ストランド様、意識ははっきりなさっていますか?

ストランドとは、おれのことなのだろうか?
ここはどこだ?
さっきまで巨木にいて、おれは熊の巣穴から飛び降りたはずなのだが。。

私が見えますか?

男はそう言って、おれを見ている。
見たことのある顔だ。。

フロントマネージャーのベルナルドで御座います。
ボーイのハリーもそこにおります。

おれは確かにその男を知っていた。
後ろに立ってる心配そうにおれを見てる青年も知っている。
ああ、、、そうか、、おれはプロビデンスのホテルにいるのだ。。。そこでようやくおれは夢の中にいたことに気がついた。

あぁ、すまない。。
ちょっと昼寝をしていたんだ。。

ご無事なら良いのですが、もう1週間以上もお姿が見えず、大変失礼ながら、起こさせて頂きました。ちょっとお痩せになっているようにお見受け致します。念のため、病院をご紹介致しますが。。

ベルナルドはマネージャーとして、というより、もともと親切な人柄なのだろう。
本当におれの健康を心配しているようだ。

。。ありがとう。
だが、大丈夫だ。
少し眠りすぎただけなんだ。。

では、お食事をご用意させて下さい。
お代はいただきませんので。
栄養をお取りになる必要があるかと思います。

ベルナルドは、礼儀正しく柔らかな言い方だが、しかし、確固たる信念を持っておれに食事を必ず持ってくる口ぶりだった。

ありがとう。
お願いするよ。

かしこまりました。
なるべく早く持って参ります。

そう言うと、ベルナルドとハリーは食事の用意のために部屋から出て行った。
おれはベッドに横たわったまま、窓の外を見ると、明るい朝の光の中でプロビデンスの街が活動を始めていた。
そこにはいつも通りの現実があった。
窓に映るおれの顔は別人のように頬がこけて無精髭が生えている。目の下には濃いクマが出来ていて、おれは驚くほど衰弱していた。
まるで麻薬中毒患者のようだ。
 
30分後、ベルナルドとハリーが持ってきた料理はいつものメニューに載っている料理ではなかった。

カブを和風ダシで炊いたもの。
卵雑炊。
豆腐。
水。
だった。

これをいつものシェフが特別に作ってくれたんですか?
おれは本格的な和風の料理に驚いて聞いた。

いえ、恐縮ながら、私が作らせて頂きました。実は京都の料亭で働いていたことがあります。
もしよろしければ、お召し上がりになって下さい。

おれは卵雑炊を一口食べると、程よい出汁の香りが効いた熱くてとろりとした味で、体が一気に温まっていくのがわかった。
カブの炊いたものも、豆腐も、衰弱したおれの体に染み入る滋味があった。
ベルナルドの優しさそのもののような料理だ。



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2024/03/17 23:24
べるさん、

読んでいただいてありがとう〜!
また時間ある時に続きを載せますね〜!
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2024/03/17 23:10
うわぁ・・・ここまで来ると、中毒性があって危険な夢ですね~。



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