夢 (6)
- カテゴリ:自作小説
- 2024/03/15 21:20:57
もう数キロはクラゲの群れの中を泳いでいたのだろうか?
時間という感覚が無くなって、そして、自分が誰なのか、わからなくなっていく。
自分はクラゲなのかも知れない。と思い始めた時、
がぱあっ
っと目の前に大きな穴が開いて、おれは否応もなく吸い込まれてしまった。
おおおおおおおおおおお、、、、、
おれはクラゲたちと一緒に真っ暗な穴の中を水流にもみくちゃにされながら流れ落ちていった。
落ちながら思ったけど、一瞬だけ見えた今のはクジラだったのかも知れない。
水流に流されて落下したそこは、クジラの胃の中と言うにはまるで異世界の、透明な世界だった。
海の中であることは間違いなさそうだが、水がとてつもなく透明で、何も無いみたいなのだ。
見上げても空も見えず、延々と透明な海がある。
魚やクラゲやサメが透明な海を泳いでいて、はるか向こうのほうまで見える。
ここがどれくらいの深さなのかもわからない。おれは呼吸をしていて不思議と苦しさは無い。
海の中で漂っていた。
しばらく呆然とまわりを眺めてから、おれはこの透明な海の底まで行ってみたくなった。
すい、と体の向きを変えて、下(と思われる方向)に泳いでいった。
驚くほどスムーズに体が進む。
たったひとかきでひゅーっと進んでいくのだ。
そのうち、本当に軽く足を動かすだけでどんどん進んでいけた。
おれはきっともう100メートル以上は潜ったと思うけど、底なんて全然見えなくてずっと透明な海だった。
気づくともう何もしなくても進んでいた。
周りの魚たちはどんどん後方へ流れていく。
おれは楽しくて思わず声を上げていた。
ひゃっほー!
遠くに何かが見えてきた。
おれは速度を上げてどんどんその何かに近づいた。
やがて、それが何かわかった。
月だった。
白っぽい月が海の中に浮かんでいるのだ。
本物の月だ。とても巨大だ。
おれは月を見て、泳ぎを止めた。
月には何も無いことを知ってるし、月はとても悲しいからだ。
そしてもし、あの月に行ってしまうと、もう戻れないような予感があった。
月に囚われてしまうと思った。
おれは引き返すことにした。
体を反転させて上へと泳ぐ。
水面を目指そう。
やはり、ほとんど体を動かす必要はなく、おれはどんどん進んで行くことができた。
透明の海の中を高速で進んでいくのはとてつもなく気持ちの良いことだった。
海面が近づいてることなど、全く気付かなかった。
しゅぽーーーーーーーーーーんっっ
突然、おれは海面から、勢い余って空中高く飛び出していた。
空は晴れて、どこまでも青く、太陽が燦々と降り注ぐ。
なんで海中からはこの青い空が見えなかったのだろう?
そんなことを思いながら空中から落ちて行く。
海は透明なのでどこが海面なのかよくわからない。
バシャーン!
と派手な音を立てて落ちた。
全く愉快な冒険だ。
おれは声を出して大笑いしていた。
もう自分が何者かなんて覚えてなくて、すでに前に見た時の夢の記憶さえも無くなっていることも気づいていなかった。
今はもうただ楽しくて仕方なかった。
味わった事のない開放感が身体中を駆け巡り、おれは笑いながら海面に立ち上がり、猛ダッシュをした。走らずにはいられない気持ちだった。
ひと蹴りで3メートルも進めるほどの勢いでどんどん海の上を走っていく。
途中でたまらなくなって思いっきりジャンプすると、軽々と20メートル以上も高く飛べた。
その高さはジャンプする度に増していき、10回もジャンプする頃にはもう空を飛んでいた。
きゃっほーーーーーーーーーーー!!!!!
おれは叫び続けながら自分の体を使って遊んでいた。
巨大な翼竜が三匹飛んでいるのを見つけると、その背中に降り立って、三匹の翼竜の背中を順番に飛び移って遊んだ。
おれはいつの間にか金髪の少年になっていた。
そばかすのある11歳の少年だった。
下を見るといつの間にか陸地になっていて、森が広がっている。
おれは何かを食べようと思い立って、上空から急降下をして、ふわりと森の中へ舞い降りた。
木々の隙間から地面に降り立つと、裸足の足の裏に感じる少し湿った柔らかい土の感触は初めてのもので、ひんやりと心地良かった。
粘土状の土はとてもうまそうに見えて、すぐにつまんで食べてみたが、ジャリジャリしていて苦くて美味くないものだった。
大きな木々の隙間から差し込んでいる光が美しい森の中を散策しているととても気持ち良かった。
空気の粒が見えて、それは透明な丸い水滴のようで、数え切れないほどの数が空中をただよっていて、日の光できらきらと輝いていた。
森の中をしばらく歩いて行くと、少し開けた円形の草むらの真ん中にとても巨大な木が立っていた。
あまりに巨大で、その小さな草むらはすっぽりとその巨大な木の影になっていた。
葉っぱの一枚一枚も巨大でおれの上半身よりも大きかった。
手の届く葉っぱを掴んでみると、肉厚で柔らかくしんなりと艶やかで、少しひっぱると葉っぱの上に乗っていた朝露がぶるりとこぼれ落ちてきた。
おれは葉っぱの下へ行って口を開けて待った。
どぱっ!
とおれの顔面に大きな水滴が落ちて、おれはずぶ濡れになったけど、とても気持ち良かった。
その巨大な木にはリスや鳥や蛇が住んでいて、あちらこちらで彼らの鳴き声が聞こえていた。
驚いたのは、幹の上の方にある巨大な穴から黒い熊が出てきたのだ。
熊もこの巨木を住処にしているようだ。
熊は器用に木を降りてくると、おれには目もくれずのそのそと草むらを歩いて、森の奥に入って行った。
その巨木のずっと上の方にはよく見えないけど、実がなっているようだ。
葉の隙間からちらりと赤っぽい色が見えてる。
ちょうど熊が出てきた穴の横あたりだ。
おれは地面を蹴って飛んで木の上まで行こうとしたが、何故かもうさっきみたいには飛べなかった。
少しだけ浮いてすぐに地面に降りてしまうのだ。
仕方ないので木を登ることにした。
足の裏にうんと力を込めて、木の幹を掴むようにする。
ふくらはぎをうまく使って腰と尻が固定できる位置に調節する。
腕を伸ばして木のこぶに手をかけて、下半身からしっかりと体を持ち上げる。
なかなか大変な作業だ。
汗だくになってきたけど、まだたったの2メートルくらいしか上がってない。
それでもがんばって、ふっ、ふっ、と息を細かくはきながら集中して登って行く。
かなりの時間をかけてようやく真ん中辺りまで来ただろうか?もう汗だくだ。
足はぷるぷると震えている。
おれは、はぁっ!と大声で気合を入れ直してまた登っていく。
鳥の巣があって青い卵が4つあったり、蛇の住処の穴があって中には小さな卵がいくつかあったりした。
おれはゆっくりと楽しんで観察する余裕もなく、必死で登っていく。
ようやく熊の穴に手がかかってよじ登った。
おれは這々の体で穴の中に体を持ち上げた。
おれはクマの穴の中に転がり込むと、大の字に横になって、ぜいぜいと息をし続けた。
もう限界だ。
太もももふくらはぎもずっと痙攣していた。
汗がとめどなく流れ落ちていた。
しばらくそのまま休んで、呼吸が落ち着くまでだいぶん時間がかかった。
ようやく落ち着いてから、おれは額の汗をぬぐって、足のマッサージをしながら、穴の中を見渡した。
読んでいただいて、ありがとう〜!
追記、
あ、思い切り11歳の少年って書いてあった。。自分で書いておきながら忘れてた〜
でも気持ち良さそう〜
べるさんには、彼が夢の中ではすでに少年のように(たぶん、夢の中の実際の彼の姿も)なっていることが明記してなくても伝わってるのですね!
確かどこにもあえてはっきりは書いてなかった気がするけど。