Nicotto Town



In This Cage-8796

ここで何日が経ち、何日戻ったか。

そのような些事はこの事象になんら干渉しない。
無意味とわかりきっても、僕はきっと思考してしまうだろう。

ただ発生し続けるL1ループに飲み込まれたままの僕たちは、これを脱出できない。


あれは、最後の決断だったのだ。
正しいか間違っているかなんてどうでもよかった。
ただ、助けたかった。
――いや、これでは齟齬が生じる。
一切の恥じらいもなくいうのであれば、ただただ助かりたかったのだ。
目の前に吊るされた恐怖に慄いて、背後のはてしない落とし穴に気付かなかった。

僕はやつらの目を盗み、あろうことかこの箱庭を完成させ、起動した。
しかしその時には遅かったのだ。
彼女の叫び声が、途切れなかった。
振り返れば、彼女は首から上を失ったまま立ち尽くしている。
そしてそのままこちらを向いて、床上の双眸が僕を認めて、叫ぶのを止めた。

愚かな僕はやっとその時に気付いたのだ。
己の愚行、非業、許されざる罪。
彼女に押し付けてしまったただ一つの回生。

やり直せないか、何度も試行錯誤した。
しかしどうあがいても、内部からの設定変更はできず、開始位置の変更もできなかった。
つまりは、内部から脱出は不可能ということだった。

繰り返し発生する犠牲者はただ一人だ。
もっと早くに異常に気付けたなら。
もっと早くに決断できたなら。
罪のない彼女が死に続けることもなかったのに。

彼女の叫びも、臭いも、声も、なにもかもを繰り返す。
こんな箱庭など、作らなければよかった。



そして彼女は動き出す。
すべてを理解した彼女は首のない肢体を引き摺ってこちらに這いずる。
僕の罪を知る彼女はまたいつものように僕の首に手をかける。
痛みも苦しみも、分け合えないからこそ、与え合うのだ。
暗転。


また、彼女の声がする。
ここは、僕だけが知覚する、僕の監獄であり、彼女が僕に罰を与える処刑場であり、”箱庭”<いつもの日々>なのだ。

<<生体反応消失。 L1ループを開始します・・・>>




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