過去の日記移植シリーズ 「鳴く犬1」
- カテゴリ:自作小説
- 2024/01/20 14:52:52
一
小学生の時に、知り合いの人が飼っている犬が子供を生んだのでもらってくれないかと相談され、茶色い仔犬(柴犬の雑種)をもらった事がありました。
ようやく離乳できたばかりのその犬は、耳が少したれ下がり目はまん丸で鼻先が少し黒くてとてもかわいい顔をしていました。
早速、買ってきたばかりのピカピカな餌バチに牛乳を入れダンボールの中に置いてやりましたが、匂いはかぐのですがなめようとはしません。
やっぱり牛乳は牛の子供の乳であって、犬の子供の乳じゃないから飲まないのかな? とか思いながら見ていると後ろ足で餌バチのふちを踏んでひっくり返して自分のしっぽがべたべたに(笑)
結局その日は何も口にせずキャンキャン鳴くばかりでしたが、夕食の時間にもなったし見たいテレビアニメもあったので、その犬を玄関の所に置いたまま鳴き声を耳にしながらも、テレビの音を少し大きくして見ていました。
そして、9時になり子供はもう寝る時間。でもその犬は休んでは鳴きの繰り返しで一向に鳴き止みません。
少し心配でしたが、最後に犬の顔を見て弟と布団に入りました。
二
無から徐々に意識が自分のものになる感覚の中、かすかな犬の鳴き声が少しずつ大きくなってきて目がさめた事に気付づきました。相変わらずその犬は鳴いていました。 時間は何時か分かりませんでしたが、お勝手の電気も消えていたので真夜中だったでしょう。
自分は一人で起きてこそっと玄関の電気をつけその犬を見に行きました。するとしっぽを必死に振って首縄いっぱいになるまでハフハフ言いながらこっちにこようとしていたので、やっぱりお母さん(母犬)がいないとさびしいのかな?
などと思っていると親父も起きてきたので、「この犬ずーっと鳴いていたんじゃない。」って言ったら、親父は「犬と云う物はそういう物だ、もう寝なさい。」と
心配でしたが、引いていた潮がまた満ちてきたかのごとく眠気に包まれてきたので布団入るとその途端に意識は無くなりました。
三
自分が親から引き離されたら何日泣くだろう? 3日かな7日かな っと学校の教室で考えながら家に帰ってきたら、その犬は元気に餌を食べていました。
そして、その夜は クンクン言ってはいましたが、鳴く事はありませんでした。
それから、弟と田んぼの方に散歩に連れて行ったり、毎日学校から帰ってくるのが楽しみで給食の残りをこそっとポケットに入れて持って帰って来ては、おやつにあげたり、少し遠い中学校の校庭でボール遊びしに行ったりとしばらく楽しい毎日が続きました。
さすがに1年もするとその仔犬も立派な大人になり、よたよたで転びながら走っていた事など信じられない程のスピードで追い抜いていきますし、綱をひっぱられて散歩させられているのはどっち? というくらい力も強くなりました。
それ位の頃から、自分も学校の友達と野球やったりボードゲームや漫画買いに行ったりも楽しかったので、徐々にその犬と遊ぶ時間は減ってきました。
親父は仕事で毎日遅く、母親は買い物に行ったり食事作ったり掃除洗濯や体操服のゼッケン縫ったりと忙しかったので、散歩に行く暇はありません。
弟も、学年の友達と鬼ごっこしたり、コーラの王冠(栓)を集めたりとあまり犬をかまう事はしなくなりました。
しかし、犬は毎日うOちしますので散歩に行かなければ、その場にするしかありません。
最初はそれをスコップですくって家の脇のドブに捨てていましたが、だんだんそれも面倒になり 雨が降った後などは庭の土なのかそれなのか見分けもつかず
冬毛が抜ける時期には、抜けた毛がそれに付き それを犬は足で踏んでいますので、さらにまた散歩に連れて行くのがいやになりました。
それでも頑張って1週間に1度程度は連れて行こうと決めましたが、平日は学校が有るし帰ったら友達と遊びたいし宿題もやらねばなりません。
土曜日は、学校昼まででしたが、土曜しかいけない少し遠い公園まで皆で行く約束などをすると散歩はいけません。
日曜は、午前中少年野球の練習なので、帰ったらアイス食べながら少しグターっとしたいし
親父も日曜くらいは、のんびり過ごしたいので新聞見ながらランニングとパンツ一丁で足の爪などを切っているし、母親は日曜なので朝昼晩と食事を作らねばならないので犬の散歩などは行ってられません。
結局、犬が欲しい! と一番言った自分がそれをやらねばならいくらいの事は解ってはいたのですが、やらねばならんと思えば思うほど更にやりたくなくなる・・・
誰かがやってくれるだろう・・・っともうその事を考えるのもいやになり、しばらく犬の顔を見ない日々が続きました。
つづく