Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


キラとニクラの大冒険 第二章(3)

シュコピッポ大佐は事前にセイゲンさんや船工場の職人たちがニクラの味方ということを嗅ぎつけており、ニクラが町に戻ってくることも、裁判が行われること彼らに知らせてはならぬ。と町中の人々に箝口令を出していた。
箝口令に従わぬものは逮捕するとの命令であった。
しかし、工場が休みの日の夜、町に飲みにきていた職人の一人が隣のテーブルの酔っ払った男たちが裁判の噂話をしているのを聞いて、セイゲンさんや親方たちもそれを知ることになった。
翌日の朝、セイゲンさんと工場の親方や職人たちは町の裁判所や警察署に押しかけた。
親方や職人たちは、「キラは誘拐されていないし、馬車も盗まれていない。ニクラは犯罪者なんかじゃない。裁判をやり直して、俺たちにも証言させろ!」と、口々に訴えかけた。
しかし、裁判所も警察も、ニクラが無罪である証拠が何も無いし、しかもすでに充分な審議の上で判決が出ているのだから、再審などできるわけが無い。と、聞く耳を持たなかった。
すると、突然セイゲンさんは杖で警察署の受付の机をバンバンと叩き、その場にいる警官たち全員を怒鳴りつけた。

おまえら、恥ずかしいと思わんかゃっ!!!!!!
無実の子供に罪を着せるのかっ!!!!!!無実な者に証拠などあるかぁっ!!!!!!
大バカモノッ!!!!!
署長を呼んで来いっ!!!!!!!!!!!

親方も職人たちもみんないつだって静かで優しいセイゲンさんがこんなに大声で怒るのをはじめて見て、呆気に取られていた。
警官たちはセイゲンさんのものすごい迫力に気圧されて、みんなうろたえていた。
しかし、そこに階段から警察署長が降りて来て、この男も逮捕しろ!!と、セイゲンさんも逮捕してしまった。
しかし、セイゲンさんは次の日の朝には牢屋から出された。
高齢のためと、ただ杖で警察の机を叩いて大声を出しただけでは、さすがにこれ以上拘留することはできなかったのだ。
その日の昼、工場のみんなはセイゲンさんの家に集まり、どうやってニクラを救い出すか話し合った。
みんなこの町のことをよく知っていたし、キラの両親がこの町の権力を持っていることもわかっていた。
裁判や警察に歯向かうということは、これから先の工場の立場をとても悪くすることもわかっていた。
それでも男たちはニクラを助けようとしていた。

親方と職人たちは翌日から工場を閉めて大通りに立ち、町の人たちにこの裁判は不当なものだ。と、ビラを配って訴えかけた。
セイゲンさんは体調が悪い、と言って来なかった。
親方と職人たちは町の人たち一人一人に一生懸命丁寧に訴えかけた。
しかし、みんな眉をしかめて足早に通り過ぎたり、中には犯罪者を庇うのか?と文句を言ってくるものもいて、誰一人まともに話を聞いてくれなかった。
途中で警官が来て、今すぐやめないと交通法違反で逮捕すると忠告を受けて、親方はやむなく訴えかけるのをやめた。
今、自分たちが逮捕されると、ニクラを救うことが出来なくなるからだ。
親方はそれから毎日裁判所や警察署に行ったり、それから、隣町にある弁護士事務所にも行った。
この町とは関係の無い弁護士なら公平に判断してくれると思ったのだ。
隣町の弁護士は親方の話を聞いて、理不尽な判決だ。ということに同意してくれた。
しかし、キラの父親やシュコピッポ大佐がこの事件に関わっていることをすでに知っていて、申し訳ないが、私には何も出来ない。と、協力を断られた。
特にシュコピッポ大佐に刃向かうことは国に逆らうのと同じことだったのだ。

そして、ニクラの刑が執行される火曜日になった。

朝、町は奇妙に静まり返っていた。
広場にいつも朝に日向ぼっこに来る老人たちの姿も無く、ただ風が吹いていた。
執行の時間のお昼が近づくと、執行人たちが絞首台を大きな馬車で運んで来て、広場の真ん中に備え付ける作業をはじめた。
町の人たちも徐々に広場に集まってきて、その作業を見ていた。

絞首台は大人の男の背丈の倍以上もある巨大なもので、階段がついていた。
太陽が高く昇り、絞首台の強く黒い影が地面に食い込んでいた。
絞首台の準備ができる頃には広場は町の人たちで埋め尽くされた。
町中の人たちが平和な町で起こった前代未聞の凶悪な誘拐事件に注目していた。

そして、ニクラが馬車に乗せられて連れて来られた。
ニクラを見ると、町の人たちは恐ろしさに眉をしかめたり、罵声を浴びせる者や、中には目は奇妙な期待感が浮かべて露骨にニヤニヤと笑っているものもいた。

その頃、親方や職人たちの全ての家には軍人たちが張り付いていた。
彼らに死刑執行の邪魔をさせないために拘束したのだった。
しかし、セイゲンさんの家だけはもぬけの空だった。

そして、もちろんキラの両親も広場に来ていた。
彼らは、執行前の挨拶を町の人たちにする予定なのだ。
しかし、キラは来ていなかった。
キラは前日の夜から体調を崩し、まだ病室にいた。

2人の執行人の間にニクラは腰と手首に縄をつけられて、絞首台の横に立たされていた。
絞首台の前には演説台が置かれている。
たくさんの警察官や軍人たちが警備しており、広場には町の人たちのほとんどが集まっていて、ざわざわと落ち着かない雰囲気だった。
広場の中央にはキラの両親とシュコピッポ大佐、警察署長の姿があった。

これで執行の準備が整った。

最初に警察署長が壇上に上がりニクラの関わった事件の概要を述べて、これから処刑が執行されることを述べ、それから神に祈った。
次にキラの父親がシュコピッポ大佐と警察署長に礼を言って壇上に上がり、町のみんなに演説をした。

私はまだ若い少年がこのような刑に処されることを大変遺憾に思います。しかし、彼はまさに悪魔の化身であり、神の御心がご判断された裁きです。
彼が神に許されることを切に願います。
そして、町の皆様のご協力に重ねてお礼を申し上げると共に、教育委員長として、よりいっそうの美しく平和な町づくりのためにこの身を捧げることを、ここにお約束致します。

キラの父親はそう言って、みなに向かって深々と頭を下げた。

観衆からは、拍手が上がった。

次に母親が壇上に上がり、まずお辞儀をしてから、話しはじめた。
その目には涙が浮かんでいる。

わたしにはこのようなまだ年半ばの少年が刑に処されることは耐えられません。

母親はそう言って涙をこぼしてうつむいた。それから、顔をあげ、涙を拭いて、凛とした姿勢で話を続けた。

しかし、主人の言う通り、これが神の御心であるならば、わたしたちはしっかりと見届けなくてはいけないと思います。
この少年が私たちと神の愛で満たされて、悪魔の心から解放されて天に召されるように心から願います。
皆様、どうかこの少年に愛を与えて下さい。
それが唯一の救いなのです。

そう言って、母親は涙を流しながら、みなに向かってもう一度深々と頭を下げた。

すると、よりいっそう大きな共感の拍手が広場に鳴り響いた。

そして、拍手が静まると、ニクラは絞首台の階段の下に連れて来られた。
それから、手首と腰の縄を外されて、自分で階段を登るように執行人に促された。
みな、息を飲んでその様子を見ている。

絞首台からはニクラの首の太さや身長に合わせた細く長い縄がぶら下がっている。
ここには誰一人ニクラの味方はいなかった。
キラも、ぱっぱっぷすも、ポルコも、セイゲンさんも、ハナ婆も、親方や職人たちもいなかった。
ニクラは一人で階段を上がり死ななくてはならないのだ。




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