こんな夢を見た。
- カテゴリ:自作小説
- 2023/11/22 22:39:23
今日うち上がったのは、スナメリだった。
帰り道の途中で一緒になった実咲ちゃんと里那ちゃんが、砂浜に下りて白い巨体を囲む。
通学路の途中にある海には、よく海洋生物がうち上がる。くらげ、いるか、くじら、他にもいろいろ。
しょうがないので私も浜辺に下りたが、棒きれを拾って息も絶え絶えのスナメリをつつく二人に嫌気がさし、階段に併設された見晴らし台に登った。下校中の見知った面々が、浜辺のあちこちにちらばってはしゃいでいる。海は無条件に楽しい。残酷さが無邪気に見えるほど。
曇り空の下精彩を欠いた海に背を向ける。防風林としての松林と住宅街の向こう、虹色の空が広がっていた。
空も虹と同じ原理のもと太陽光の反射で「そう」見えるのだから、青一色から七色になっても不思議でないなと受け入れられた。ただ、鮮やかな背景を透かしつつ浮かぶ巨大な白いくらげにはさすがに驚いた。
すかさず幻かと疑ったが、一、二度ふわりふわりと膨らんだくらげは勢いよく急降下して入れ代わるように水柱が姿を現した。この町は半島なのであちら側も海だ。落下して、水飛沫が上がる。つまり実体がある。
何かよくないことが起こる。確信して背後を振り向いたそのときだった。
実咲ちゃんと里那ちゃんが吹っ飛んだ。あのスナメリに体当たりされたのだ。
さっきまで死にそうだったのが嘘のように、スナメリは猛スピードで波打ち際に体を揺らし走る。何人かが白い体躯にぶつかったり潰されたりするのを気にする暇もなく、同級生は追いこまれるように海の方へ逃げ出す。
走り寄った先の暗い緑の水面が激しく波打つ。人が入ったからじゃない。信じられないほど巨大なあしかが、大きな口をあけながら顔を出したからだ。排水溝に流れるごみのように何人かが赤い口に悲鳴とともに消える。それで終わりかと思えば、絶望的にももう一匹が同じように姿を見せた。
海に逃げることのかなわないみんなは、今度はスナメリに弾き飛ばされ二つ目の口に落ちる。
ああこれからは虐げてきた海獣に復讐されるのだ、きっと。
タイトルはまんま漱石先生からお借りしました。
理性的なのか非現実的なのか自分でもよく分からない受け入れ具合でした。
不思議でないなと受け入れられた、っていうところが夢という感じが出ていて素敵です。