Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


キラとニクラの大冒険 (56)

6人の男たちは一通りテントの中や浜辺の周辺を調べると、警察署長が望遠鏡を使ってあたりを見渡した。
望遠鏡をこちらに向けて、キラとニクラは一瞬ドキッとしたけど、ふたりは浜辺からだいぶ離れた沖に浮かんでいるので気がつかれなかったようだ。
それから6人の男たちはなにやら話をしている。
軍人らしき男はしきりにテントの中を気にして何度も中を調べている。
それからしばらくして、ようやく6人の男たちはまた馬に乗って引き上げて行った。

ニクラとキラは、念のためまだ海の中に隠れていることにした。
ふたりは話し合って、夜になったら浜辺に戻り、すぐに荷物をまとめることにした。
警察たちは町の方から来たので、ニクラたちは逆に町の方向に向かって戻り、ハナ婆の家にかくまってもらうことに決めた。

ぱっぱっぷすはやはりとても辛そうで、じんましんがおさまらず、ずっとうんうん唸りながら寝ていた。
ここには火箱が無いので、キラが森から持ってきたハンシンをぱっぱっぷすに食べさせることが出来なかった。
ハンシンを湯がかないで生のまま食べると、毒があって吐いてしまうのだ。
でも、ぱっぱっぷすの唸り声は大きくなるばかりで、ひたいに触ると熱が高くなっていた。
ニクラはイルカとふたりで浜辺に戻り、水と火箱を取ってくることにした。
キラはニクラが大人たちに捕まってしまうかも知れないと、とても心配だったけど、今にも死んでしまいそうなほど苦しそうなぱっぱっぷすをほうっておくわけにもいかなかった。

ニクラとイルカはゆっくりと浜辺へ向かって泳いでいった。
途中、何度か海面から少し顔を出して浜辺やその周囲の様子をうかがったけど、誰かがいる気配は無かった。
ニクラはテントのある場所より迂回して崖側のほうから岸に上がった。
イルカをそのままにして、ニクラは身をかがめて素早くテントまで走った。
テントから火箱や焚き火用の小枝や、いくつかの食べ物と鍋、水筒をつかんで袋に入れて、すぐにテントを出ると、岩場で水をくんで水筒に入れた。
それからすぐにまたイルカの待つ崖側の岸まで走った。
イルカはさっき着いた岸で待っていて、ニクラを乗せるとすぐに海へ潜った。

ニクラが急いでキラとぱっぱっぷすが待つ海底まで戻ると、ぱっぱっぷすの症状はさらに悪化していた。
寒気がするようで、身体をガタガタと震わせて、顔色が青くなっている。
ニクラは急いで鍋に水を入れて、火箱を使って焚き火を作りお湯を沸かした。それからキラも手伝ってふたりでハンシンの硬い皮を石やナイフを使ってむいた。
ようやくお湯が湧いたので、ハンシンの白い実を茹でた。
幸いキラはたくさんの実を取ってきていた。そのうちの10個をいっぺんに茹でてから、実を砕いて、水と混ぜて、ぱっぱっぷすの口に流し込んだ。

ぱっぱっぷすはむせて、少し戻したけど、なんとか飲み込むことができた。

キラとニクラは、ぱっぱっぷすをはげましながら何度も声をかけたけど、ぱっぱっぷすは答えることができずに、まだしばらくは目をつぶって唸っていた。
それからぱっぱっぷすは少しづつ唸り声をあげなくなって、静かに眠り始めた。
見るとぱっぱっぷすの顔にたくさん出ていたじんましんは少しづつ無くなってきていた。

ニクラとキラはようやく一息ついて、これで大丈夫そうだ、と安心した。

ふたりは眠っているぱっぱっぷすを見守りながら、さっきやってきた町の男たちのことを話した。

キラがニクラに言った。

あの人たちは、きっとお母様に命令されて、わたしを連れ戻しに来たんだわ。
わたし、あの家に帰るなんてぜったいに嫌。
それに、ニクラもあの人たちに捕まったら、きっとひどい目に合わされると思うの。
お母様はわたしをニクラが誘拐した。ってことにして、警察署長たちに捜索を命令したんだと思うわ。

キラの想像は当たっていた。
キラの母親はいつまで捜索しても一向にキラが見つからないことに業を煮やして、町一番の権力者の父親に国の政治家に掛け合うように話をしたのだ。
政治家は警察や軍にキラの捜索命令を出した。
それで、警察は今まで敬遠していた海のほうまで捜索範囲を広げたのだった。
そして、それはただの捜索ではなく凶悪な誘拐犯のニクラの逮捕も目的のひとつだった。
キラの母親はあくまでも誘拐事件の捜査として、父親から国の政治家に話をするように強く要望したのだった。

全ては家族の名誉のためだった。

キラの母親は、反抗して出て行った不良娘の親ではなく、優秀で美しい娘を失った悲劇の母親でいなければならない。ととても強く思い込んでいたのだ。


海底に月明かりが届いて、静かな夜になった。
海の中はとても静かで、暗く青く美しかった。
イルカとツキとこすもすの出す空気の玉のおかげで海の底にいるのに寒くはなかった。

ぱっぱっぷすはようやく目を覚まして、ふたりを見た。
まだ意識がはっきりしていなくて、朦朧としているけど、身体中のじんましんは全部すっきりと無くなっていた。

う、、んー、、おれ、、悪い夢見てた。。なんで海ん中にいるんだ。。?

そう言いながら、ぱっぱっぷすは立ち上がったけど、まだ体力が戻っていないようでふらふらしてよろめいた。

ぱっぱっぷす、無理に立たないで。

と、キラとニクラが支えた。

うん、まだしばらくここで休んでいようよ。

と、ニクラが言って、ぱっぱっぷすは海底に座らせた。

はは、、これじゃ、ニクラがサーラーに吹っ飛ばされた時とおんなじみたいだ。。

ぱっぱっぷすは力なく言って笑った。

キラはぱっぱっぷすに町から警察たちが来たことや、もし彼らに見つかったら、ニクラは捕まってしまうかも知れない。と、話した。

なんでニクラがやつらに捕まるんだ?
捕まったら、どうなるんだ?

キラはぱっぱっぷすに、警察や政治家、軍隊の説明をして、それから自分の家族のことも話した。

う〜ん、なんだかおまえらの住んでたところはややこしいんだなあ。それで、キラは町に戻りたくないんだな?

ぱっぱっぷすは少しづつ力を取り戻してきたようで、口調がはっきりしてきた。

うん、またあの家にもどるなんてぜったいに嫌だし、ニクラが捕まえられるのもぜったいに嫌!

キラは怒っていた。

それから3人は今夜中に出発して、ハナ婆のところに行くことをもう一度話し合って決めた。
ハナ婆ならきっと力になってくれると、ぱっぱっぷすは言った。
夜移動するのは危険だったけど、それ以外に方法は無かった。

しばらく休みながらニクラがテントから持ってきた魚の干物を食べると、ようやくぱっぱっぷすに体力が戻ってきたので、浜辺に戻ることにした。
浜辺に向かって進みながら、ぱっぱっぷすは夜目がきくので、たまに海面から顔を出して浜辺の様子を伺った。
誰もいないし、誰かが隠れている気配も無かったので、3人は静かに上陸した。
ポルコがひとりでテントの前で待っているのが見えた。ケップツップたちや他の妖精たちはもう帰ったようだ。

ポルコ!!

キラは走り寄って、ポルコに抱きついた。
キラはポルコが警察に見つかってなかったか、心配だったのだ。
3人は急いで荷物をまとめて、すばるからくりも荷台に積むと、なるべく音を立てないように素早くテントや荷物を片付けた。
全部の荷物を荷台に積み終えるとポルコにハーネスを繋いで、ハナ婆の家に向かって出発した。
ポルコはゆっくり丘を登ってハナ婆の家に続く森の道に入った。
そこから、ポルコは駆け足になった。




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