Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


キラとニクラの大冒険 (49)

7つの頭の蛇はニクラたちが自分の巣に入って来たことに気がついていないようで眠っているようだった。
ニクラはゆっくりと蛇に近づいてしっぽのほうから回り込んで奥へ行った。キラとぱっぱっぷすが蛇の身体のどの辺りにいるのかを感じ取ろうとしていた。
蛇の身体はあまりに巨大で全体がどうなっているのかよくわからず、たまに、胴体がふくれて呼吸していた。
キラの命は静かに眠っていて、ぱっぱっぷすの命は動きまわっているのがわかった。
しかし、ふたりが近くにいることは確かなのに、蛇のどこにいるのかが全くわからない。
蛇の胃や喉や口ではなくて、とても漠然としたこの空間の中にふたりがいる。ということしかわからないのだ。
ニクラは必死にいろんなところに目を凝らしながらふたりが蛇の体内のどこにいるのか探した。
その空間は奥に行くにつれて狭くなってきて、ついには蛇の身体とまわりの壁がぴったりとくっついて、まったく隙間が無くなって通れなくなってしまっていた。
ニクラは上のほうに泳いでみたけど、やはり蛇は身体をその狭い空間にみっちりと詰め込んでいて、これ以上奥へ行けない。

ニクラはすぐに心を決めると、腰からナイフを取り出して、蛇の胴体を引き裂いた。
引き裂かれたまわりの皮膚がぴくりと動いたけど、蛇はまだ眠っているようだ。
胴体の肉は首の肉よりも何倍も分厚くて、ニクラは何度も何度もナイフで肉を切り裂きながら、肉の中へ潜り込んでいく必要があった。
ニクラは蛇の血と油で身体中を汚しながら、やっと中まで切り開くことができた。
すると、そのあたりはちょうど 胃袋になっていて、切り開くと、その中にどっと海水が流れ込み、中からドロドロに溶けた魚やサメ、サーラーのような巨大な生き物の一部も出てきてあたりに散らばった。
ニクラはイルカと一緒にその中へ飛び込んだ。ツキとこすもすはついてこようとしたけど、ニクラは、ふたりはここで待ってて。と連れていかないことにした。
もしもニクラとイルカが死んだとき、うまくキラとぱっぱっぷすが自力で逃げることができたら、ツキとこすもすに乗って逃げることができると思ったのだ。

ドロドロに溶けた死骸の中を進んでいくと、食道のような管の中に出た。海水は蛇の体内にどんどん流れ込んで、管の中にもあちこちに生き物の死骸の肉片や骨がぬらぬらとした油と共に浮かんでいた。その管の中をニクラとイルカは泳いでいく。やがて、今来た胴体の管よりも、もう少し狭い管が何本にも別れている場所に着いた。ニクラはどれがキラとぱっぱっぷすを飲み込んだ首とつながっている管なのか、感じ取ろうとしていた。
しかし、ニクラはどの管の先からもキラとぱっぱっぷすの命を感じなかった。
7つの頭があるはずなのに別れている管は6本しか無かったのだ。

キラとぱっぱっぷすは胃袋の中にも途中の管にもいなかった。でも、ニクラはふたりの命をもうすぐそばに感じている。
それでも、ふたりを見つけられなかった。

そして、蛇の胃袋を引き裂いて、管の中を通って来たのに、なぜ蛇が起きないで眠り続けているのか、わからなかった。

ニクラは早くふたりを助け出さないと死んでしまう。と焦る気持ちを無理やりに押し込みながら、目をつぶってイルカの身体をもう一度触った。
イルカは何かを感じていた。
それはキラとぱっぱっぷすの命では無く、得体の知れないものがこちらに近づいて来るのを感じていた。
ニクラが目をあけると、そこには邪悪なものがいた。
その邪悪なものは人間の形をしているけれど、人間では無かった。
顔には鼻も口も耳も無く108つの目が顔中にばらばらに散らばっていて、いくつかの目はふたつやみっつがひとつに溶け合っていた。憎悪に満ち溢れたそのすべての目がニクラを睨みつけていた。

ニクラは今までに感じたことのない圧倒的な恐怖を感じて、一瞬の間、身体中の血が逆流するのを感じた。

黒くて長い髪の毛は一本一本すべてが異様に細い蛇で、数万匹がうねうねを水中に漂い、ふたつの腕と足の指は真っ黒く憎しみの色に染まっていた。
そして、4本の異様に太くて長いペニスがこれから起きる暴力に興奮して激しく勃起していた。

ニクラはまた目を見て呪いにかかってしまわないように、邪悪なものの目からすぐに目をそらした。
邪悪なものがそこにいるだけで、海水がきりきりととても冷たく、ニクラの恐怖を増幅させた。
ニクラの体は恐怖で細かく震えていた。
イルカは邪悪なものにすっかり怯え切っていた。
邪悪なものはニクラに話しかけた。
口は無いが、辺りを震わせるほど低く恐ろしい声で。

わたしの身体を傷つけたおまえの罪は重い。おまえに永遠の苦しみを与えよう。千の肉片となって死ね。

ニクラは震えながら邪悪なものに言った。

キラとぱっぱっぷすはどこだ!

ニクラの声は裏返り、身体は恐怖と寒さで絶え間無く激しく震えていた。

あの子どもたちはもうわたしの本当の胃の中にいる。魂がわらぢのぶけとなりゅのだだだだだ。。

邪悪なものが言った言葉は途中から混乱していた。

お前の本当の胃はどこにあるんだ!

邪悪なものの108つの目はニクラを睨み続けている。ニクラはその目を見ていなくても、その強力な呪いの力をはっきりと感じていた。
邪悪なものの力は圧倒的でどれだけがんばっても決してかなう相手ではなかった。
ニクラの体は芯から冷えて、殺されてしまう恐怖は絶望に変わりかけていた。

ニクラは自分がポケットの中のあめしらずをいつの間にか握りしめ、もう一方の手でイルカの身体を強く掴んでいることに気がついた。

ニクラはセイゲンさんの言葉を思い出した。

邪悪なものがおみゃを殺すとき、恐怖に心を殺されるんだゃ。そしだら、おみゃの心臓も止まるんだゃ。
ニクラ、恐怖を捨てるんだゃ。


ニクラはポケットから手を出して、イルカの身体からそっと手を離した。
震える身体を自分で強く抱き込むようにして抱えて目をつむり、もう一度キラとぱっぱっぷすの命を感じることだけに集中した。

強く強く、強く強く、強く強く、強く強く、
強く強く、強く強く、強く強く、強く強く、
キラとぱっぱっぷすのことだけを思った。




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