キラとニクラの大冒険 (47)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/11/10 09:45:28
馬車が丘の上の道まで来たとき、背後にただならぬ気配を感じた。
生臭い熱風がゆるゆると馬車を包んできた。
その匂いに気がついて、キラが後ろを振り向くと、沖合いに巨大な黒い影が見えた。
黒い影は7本の首をサーラーがジャンプした高さよりももっともっと高くうねらせていて、夜空にそびえる異常な高さの塔がうごめいているようで、とてつもない気味の悪い邪悪な気配をまとっていた。
そして、首の一本はもうすでに馬車を追って波打ち際まで伸びて来ていた。
蛇が来るわ!!!
キラがそう叫ぶと、ニクラもぱっぱっぷすも後ろを振り向いた。
7つの頭を持つ蛇の極度に長い首のひとつは、馬車を追ってきている。
その口から吐かれた生臭い息が熱風となってここまで届いているのだ。ポルコもその気配を感じて必死になって走る。
巨大な頭がもうすぐそこまで来ている。黒々として、どこが目か口かもよくわからない不気味な影のような色だった。
頭は馬車の荷台と同じくらいの大きさで、追いつかれたら馬車ごと全部を飲み込んでしまいそうだった。
ニクラはキラとぱっぱっぷすに叫んだ。
ポルコに飛び乗って!!
キラとぱっぱっぷすがポルコの背中に飛び乗ると、ニクラは自分だけ馬車の荷台に残ってハーネスをナイフで切った。
てっきりニクラもポルコに飛び乗ってくると思っていたキラとぱっぱっぷすは叫んだ。
ニクラ!!!!
ポルコから離れた荷台は急にそのスピードを落として、突然のことによけきれなかった蛇の頭に追突した。
蛇の頭が早い速度であったために衝撃が余計に強く、蛇の頭の前頭葉の辺りをぐしゃりと潰した。
蛇の頭は潰されたまま真っ赤な血をまき散らして、
ぶりゃりゅりゃりゃりゃりゃ!!!と奇妙な音を出しながら、ぐねぐねと暴れた。ニクラはすぐに荷台から飛び降りるとポルコに向かって走った。しかし、まだ生きている蛇の頭はめちゃくちゃに潰れてる口を無理やり大きく開けてニクラを飲み込もうと突進してきた。
ニクラはその気配に気がついて、とっさに横の藪の中に飛び込んだ。
しかし、蛇の頭は素早くニクラを追って藪の中へ入ろうと首を曲げてその後を追った。そのとき、蛇の巨大な目の真ん中にモリが深々と突き刺さり、蛇の頭はどしんと地面に落ちた。
ぱっぱっぷすがポルコから飛び降りて、手に持っていたモリを放ったのだ。
どうやら蛇の頭は死んだようだったが、蛇の首は目にモリが刺さったままでぐにゃぐにゃと動き続けている。
ニクラは藪から出てきて、蛇の首を見た。
ぱっぱっぷすは汗びっしょりで、ぜいぜい息をはいている。
キラもポルコと一緒に戻ってきていて、ふたりに言った。
早く逃げよう!!ポルコに乗って!!
しかし、そのときすでにさらにもう二つの頭が音も無くここまで忍び寄っていた。
ニクラが、大木の後ろから鎌首を上げ、真っ赤な口を開けてぱっぱっぷすを襲おうとしている頭を見つけて叫んだ。
ぱっぱっぷす!!後ろだ!!!!
しかし、ニクラが叫んだときにはすでに蛇の頭はぱっぱっぷすを飲み込むための充分な準備ができていた。
蛇の頭は目にも留まらぬスピードで一瞬にしてぱっぱっぷすをばっくりと飲み込んでしまった。
そして、もう一つの頭はニクラに襲いかかって来たが、ニクラは間一髪でそれをかわした。
ニクラ!!
キラは叫んで、ポルコから飛び降りてニクラへ走り寄ってきた。
すると、ぱっぱっぷすを飲み込んだ頭がするすると海へ戻り始めた。
その後を追ってもうひとつの頭と、頭が死んでいる首も海へ戻り始めた。
ぱっぱっぷすを飲み込んだ頭の首がぼっこりとふくれている。
ニクラは本で読んだことがあった。
大蛇に生き物が飲み込まれたら、胃袋に送られる前にその生き物を助け出さないと、助かる見込みは無い。蛇の胃袋の中にはとても強い酸が分泌されていて、生き物をあっという間に溶かして消化してしまうのだ。
だから蛇は獲物を飲み込んだら胃袋に獲物が送られるまでどこかに隠れる習性がある。獲物が胃袋に到達するまでは、動きが遅くなり獲物のいるふくらんだ部分を攻撃されるのが弱点だからだ。
だから今、3つの頭は海へ戻っているのだ。
ニクラは咄嗟にそのことがわかって、モリと弓矢を掴んでポルコに飛び乗った。
ニクラ!どうするの?!!
と叫ぶキラに答えるひまも無く、ニクラは全速力でぱっぱっぷすを飲み込んだ蛇の頭を追いかけた。
ポルコ!!お願い!!!あの頭に追いついて!!!!!!
ニクラはポルコに叫んだ。
ポルコは今までに無いほどの速さでぱっぱっぷすを飲み込んだ蛇の頭を追って駆けた。
砂浜に着く頃、ポルコとニクラはようやくぱっぱっぷすを飲み込んだ蛇の頭に追いついた。
そのとき、もうひとつの頭がポルコとニクラを飲み込もうとしたが、ニクラは素早く矢でその頭を射抜いた。
脳天に矢が突き刺さった蛇の頭はたまらず海へ逃げ出した。
ニクラは素早くモリを構えて、ポルコから飛び降りた。ぱっぱっぷすを飲み込んでふくらんでいる首と頭の間に思い切り体重をかけて真上からモリを突き刺した。モリは蛇の首を貫いて砂浜深くまで突き刺さっていた。
ニクラはすかさず腰からナイフを抜くと、蛇のあごの下に突き刺して縦に引き裂いた。
ニクラは蛇の首の中に手を突っ込んで叫んだ。
ぱっぱっぷす!!捕まって!!!
すると、ニクラはぱっぱっぷすが自分の手をつかんだのを感じた。
力一杯ぱっぱっぷすを引っ張って、蛇の首から引きずり出すと、ぱっぱっぷすは蛇の血みどろになりながら蛇の首から出たとたんに大きく息を吸って、咳き込みながら激しく呼吸した。
ぶはーーーーーーーっ!!!!
死にそうだぁっ!!!!!!!!
ぱっぱっぷすはふらついていたけど、まだちゃんと生きていた。