Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


キラとニクラの大冒険 (39)

キラは手をふりながら、ぱっぱっぷすのほうへ泳いで、すぐに近くまで来た。
ぱっぱっぷすは、大丈夫だったか?!キラ!!と、大きな声で言ったけど、やはりその声はほんの少ししか聞こえなくて、このままでは話ができなかった。
キラはぱっぱっぷすとこすもすにすぐ隣に近づいて、ツキとこすもすの二つの空気の玉をひとつに合わせることができないかと思って、やってみた。
ふたつの空気の玉が触れて、もっと近づくと、ふたつの空気の玉はぐにゃりとひしゃげて、そして、ぽこっとはじけるような音がして、ふたつの空気の玉はぶるぶると揺れながらひとつになった。
それで、キラとぱっぱっぷすはひとつの空気の玉の中で、話すことができるようになった。

ぱっぱっぷす!大丈夫だった?!

大丈夫だけどよぅ、びっくりしたよなあ!!

ニクラはどうしたの!?

ニクラはおれのすぐ隣にいたんだけど、ばらばらに流されて、どこに行ったかわからなくなっちゃったんだ!

キラは少し考えてから、ツキに手を当てた。

キラがニクラをさがそうと思えば、ツキがその気持ちを共有して、ニクラのところに連れて行ってくれると思ったのだ。

すると、ツキは向きを変えて泳ぎだして、こすもすもその横に一緒に着いてきた。
キラはツキがなんとなくニクラとイルカのいる方向を感じ取っていることがわかった。

なあ、そいつはニクラの場所がわかるのか?

ぱっぱっぷすはツキを指差してキラに聞いた。

うん、だいたいの方向は感じてるわ。ツキにまかせたほうがいいと思うの。

ツキとこすもすはイルカが遠くから発信する微弱な信号に向かって泳いでいった。
キラは空気の玉を別々にしないほうがいいと思って、そのままにした。


ニクラは強い水流に乗って、ぱっぱっぷすとは別の方向に、もっとずっと遠くの沖合いに流されていた。
ニクラが流された巨大な生き物が巻き起こした水流はその近くを流れていた潮流とたまたま一緒になってしまって、もっとずっと強力な流れになってしまったのだ。
ニクラは流れにもみくちゃにされながら、イルカにしがみついていた。
でも、流れがあまりに強すぎて、途中でイルカの空気の玉が流れに押し潰されてしまい、ニクラは呼吸ができなくなってしまっていた。
ニクラは長いこと呼吸ができずに、とうとう気を失ってしまった。
凄まじい水流の中でイルカの体から手が離れて、ニクラの身体は海底の岩に叩きつけられ、ゴロゴロと転がった。
ニクラは頭や身体を強く打っていた。
水流の力が弱まったとき、イルカはすぐに身をひるがえしてすごいスピードでニクラのもとへと戻った。
ニクラは海底に力無く横たわり、腕に大きな裂傷を負っていて大量の血があたりの海水に漂って赤いもやになっていた。数匹の小魚がその傷口をつついていた。
イルカはニクラのそばによると、すぐに空気の玉を出してニクラの身体を包んだ。
それから、イルカはニクラの身体に自分の身体をくっつけると、ふたりの感覚をつなげようとした。
しかし、ニクラは気を失っているので、感覚をつなげるのは簡単ではなかった。
ニクラの腕からはどんどん血が流れ出て止まらない。
イルカはニクラの身体に強く自分の身体を押し付けて、感覚を送り続けた。
イルカの感覚はニクラの意識を刺激し続けていた。
やがて、気を失っているニクラは夢を見た。
濃く赤い液体の中を奇妙な生き物が一匹泳いでいた。
半透明の人間のような形をした生き物で、つま先より長い美しい髪の毛を揺らめかせながら、泳いでいる。
その生き物はイルカたちすばるがずっと昔、他の星の海の中で暮らしていたころの姿だった。
ニクラは夢の中で、それがイルカだということがわかった。
夢の中のイルカはニクラを呼んだ。

ねえ、死んでしまうわ。
起きて。
おともだちがあなたを探しているわ。

それから、イルカは赤い液体の中を泳いでニクラの心臓へたどり着いた。
イルカはニクラの心臓へ入ると、中で踊るように泳いで心臓の中をぐるぐると激しくまわり巡った。
すると、弱く止まりかけていたニクラの心臓は、また少しづつ鼓動を取り戻して、やがて力強く脈打ちだした。

そしたら、ニクラはゆっくりと目を開けて、隣で身体を押し付けているイルカを朦朧とした意識の中で見た。

イルカは半透明の人間のような形ではなくて、やはりイルカに似た形のすばるからくりだった。
ニクラは朦朧とした頭で、イルカが自分の命を助けてくれたんだ。と、わかった。
ニクラの身体はなんだかとても重く、まだ海底に横たわり、起き上がることができなかった。
イルカはしばらくニクラの横によりそって、身体をくっつけていた。
ニクラは耳のうしろにびりびりとした刺激を感じていた。
それは、イルカがニクラの体内に懸命に強いエネルギーを注いでいるからだった。
ニクラは心地よい刺激を感じながら、イルカと感覚を共有していた。
イルカは、キラとぱっぱっぷすが遠くから、こちらに向かっていることがわかっていた。
ニクラはそれを感じると、安心してもう一度目を閉じた。
腕の出血はもう止まっていた。


キラはツキが、遠くの海底にいるイルカからずっと微弱な信号を受け取っていることがわかった。
ぱっぱっぷすに言った。

間違いないわ。ニクラは、この方角にいる。

ツキがイルカから受けている信号はまだ遠く弱いものだったけど、このこどもはしぬかもしれない。という感覚も含まれていた。
キラもそのことに気がついた。
キラは緊張して、ぱっぱっぷすに言った。

急ぎましょう!

ぱっぱっぷすはキラの張り詰めた顔を見て、なにか大変なことが起きてるんだ。と思ってうなずいた。
でも、キラはニクラが死にかけているかも知れない。とは言いたくなかった。口に出すのが怖かったのだ。





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