キラとニクラの大冒険 (37)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/10/30 04:27:02
それは言葉でも音でもなくて、耳のうしろのあたりに感じるものだった。
キラは、はじめなんだかわからなかった。
痛くはなかったけど、少しくすぐったいような感覚で、ツキが動く方向を感じ取れた。
キラは、すぐにこれがすばるからくりと意思がつながるということなんだ。と、わかった。
キラはためしに、頭の中で、右。と、言ってみた。
だけど、ツキにその言葉が伝わっていないらしく、何度言ってみても、ツキは右に動かなかった。
一度だけ右へ動いたけど、それはツキが勝手に動いただけで、キラは耳のうしろでそれを感じた。
キラは頭の中で言うのをやめて、少し考えた。
ニクラを乗せたイルカは、少し離れたところで気持ち良さそうに泳いでいた。
ニクラは楽しそうにキラに手をふった。
キラもニクラに手をふりかえした。
そこでキラは、
そうだわ、言葉で伝えるのではなくて、わたしが自分で動こうとしてみよう。
と、思った。
キラはツキにまたがっている両足の股のあたりに少し力を入れて、体重を右にかけて、自分で右へ曲がろうとしてみた。
するとツキは少しづつ右へ曲がり始めて、やがて、右へ。右へ。と曲がっていくツキの感覚がキラの耳のうしろに伝わってきた。
やがてツキはぐんぐんと右へと曲がり、右回りの小さな円を描くまでになった。
キラは今度は下へ潜っていくことにしてみた。
股の間に少し力を入れて、こんどは前かがみになって、頭を下へ曲げて、下へ潜ろうとした。
すると、ツキはゆっくりと下へ潜りはじめて、またキラは耳のうしろにツキが下へ潜っていく感覚を感じた。
キラは、今度は上に行こうとした。
すると、ツキは上に上昇して、キラはそのまま海中で縦に宙返りをしてみた。
ツキはぐるぐると宙返りをして、キラは耳のうしろでツキが宙返りしている感覚とその楽しさを共有していた。
もうすでにキラの感覚とツキの感覚は上手に繋がって、お互いの感覚や感情もうまく感じることができるまでになっていた。
ツキの感情はとてもすっきりとシンプルで、くったくのないものだった。
キラは嬉しくなって、ツキと一緒に泳ぐスピードをあげていった。
ぐんぐんと下へ潜り、それから勢いをつけて海面をめざして上昇した。
キラとツキはそのままのスピードで海面から飛び出して、空中高くジャンプした。
キラもツキも、それがすごく面白くて、何度も深く海底の砂浜ギリギリまで潜ってから空中へ、くじらのように高くジャンプした。
波打ち際で汗を流しながら懸命にこすもすに水をかけたり、また布で磨いてみたりしていたぱっぱっぷすは、ざっぱーーーーーん!という音とともに、突然キラとツキが海面から飛び出してきたのを見て、びっくりした。
キラとツキは何度も飛び出して空中高くジャンプするので、ぱっぱっぷすは楽しくなって、ほー!ほー!!ほーほー!!!いいぞぅ!キラ!!と、浜辺を飛び跳ねながら叫んでいた。
キラとツキの楽しいという感覚はひとつになって、とても強くてカラフルなものになっていた。
キラとツキは、しばらくの間いろんな泳ぎかたをして遊んでいた。
ニクラは海に入ってから間も無く、キラとツキが自由自在に泳ぎはじめたのを見て、驚いていた。
イルカは遊ぶようにくるくるまわったり、ゆるゆると気まぐれに泳いでいて、ニクラはただその背中に乗っているだけだった。
どうしたらキラとツキのように泳ぎまわれるのかわからなくて、ずっと見ていたけど、結局ニクラはただ勝手に泳ぎまわっているイルカに乗っているだけで、その日の練習は終わった。
ぱっぱっぷすは、結局その日はこすもすを動かすこともできなくて、途中であきらめてしまっていた。
ニクラが浜辺に上がってくると、ぱっぱっぷすはニクラに言った。
おい、おれのすばるからくりは全然動かないんだよぅ!なんでだ!?ニクラ!!
ニクラはこすもすに水をかけてみたけど、やっぱり動かなくて、どうすればいいのかわからなかった。
あー!疲れた!いい気持ち!
キラがわきにツキを抱えて、練習を終えて、海からあがってきた。
一度海に浸かったすばるからくりはしなやかになり、キラでも持てる程度の重さになっていた。
これが本来のすばるの重さだった。
ニクラとぱっぱっぷすはキラを不思議そうに眺めていた。
なぜ、キラがあんなに上手にツキを乗りこなせていたのか。すごく不思議だったのだ。
キラとツキは、まるでひとつの生き物に見えるくらいうまく泳いでいたのだ。
キラがニクラを見て言った。
ニクラ、楽しかったね!
。。どうしたの?
ニクラは言った。
キラ、どうやってあんなふうに上手にツキと泳ぐことができたの?
なんだかキラも海の生き物みたいに見えたよ!
ぱっぱっぷすも言った。
うん!すごかったよぉ!!キラ!!空中に飛び上がってびっくりしたぞぅ!!
うん、海に入ってすぐにね、耳のうしろがくすぐったくなって、それから、ツキが感じてることがわかるようになったの。
それから、わたしが動きたいほうに動こうとすると、ツキもわたしの気持ちをわかってくれて、その通りに動いてくれるの。
そうしたらね、なんだかわたしとツキがひとつになっていくの。
とっても楽しかったわ!!
ニクラとぱっぱっぷすは嬉しそうに話すキラの言ってることがよくわからなかった。
うーん、難しくって、わかんねえや!!明日また乗ってみたらわかるかな?!
と、ぱっぱっぷすが言った。
それから、ぱっぱっぷすのこすもすが全然動かなかったことをキラに話すと、キラは、なんでかなぁ?と言いながら、こすもすに手のひらを置いてみた。
キラはそのまま目を閉じて、しばらく手のひらをこすもすの身体に置いていた。
それから、キラは、ふふ。と、笑った。
おい、キラ、どうしたんだよぅ!!なにがおかしいんだよぅ!?
と、ぱっぱっぷすが聞くと、キラは目をあけてぱっぱっぷすとニクラに言った。
あのね、このこはぱっぱっぷすが嫌いなわけじゃないと思うわ。
ただちょっとぱっぱっぷすにいじわるをしたいだけなの。
ぱっぱっぷすがあんまり一生懸命水をかけたり、磨いたりするから、それが面白いの。
それを聞いたぱっぱっぷすは怒って言った。
こいつはおれをからかっているのかよぅ!!?
キラは言った。
うん、ぱっぱっぷす怒らないで、このこはまだこどもみたいなの。だから、ぱっぱっぷすをからかっちゃうのよ。
でも、きっとすぐに海へ入ってくれるわ。大丈夫よ!
でも、ぱっぱっぷすは怒ってしまって、ブツブツ文句を言いながら、ひとりで浜辺を歩いていってしまった。
どうやら、自分だけ海へ入れなかった原因がすばるからくりにからかわれていただけとわかって、すねてしまったようだ。
ねえ、キラはこすもすと話ができるの?
と、ニクラはキラが次々に見せる今まで聞いたこともない能力に驚きながら聞いた。
ううん、話をするんじゃないの。
ただ、わたしもこのこやツキが感じていることを同じように感じるの。
それでね、わたしが感じていることも、ツキもこすもすも一緒に感じてるわ。
そのこともわかるの。
ニクラはどうやってそんなことができるのか、キラに教わりたかったけど、キラは今言ったこと以外にどうやって説明したらいいのか、わからなかった。
そうかぁ、じゃあ、きっとまた乗ってみるしかないね。
明日また練習しよう。