キラとニクラの大冒険 (32)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/10/24 07:56:27
翌朝、3人は騒々しい鳥の鳴き声で目が覚めた。
テントから出ると、空にたくさんのエスパーという海鳥たちが海から逃げるように飛んで、空一面を覆い尽くすほどだった。
3人は、またあやかしのしわざかとも思ったけど、歌声は聞こえてこないし、どうやら違うようだった。
ぱっぱっぷすはぺきぺきという植物の茎で歯を磨きながら言った。
これ、なんかの前ぶれだ。
もしかしたら、おまえらの言ってた7つの頭を持つ蛇が暴れてんのかもな!
このとき、3人は知らなかったけど、ぱっぱっぷすの予想は当たっていた。ふうせんばくだんの工場から流れ出る毒水が止まって、新鮮で冷たい海流が北から流れ込んできたので、7つの頭を持つ蛇は久しぶりに目を覚ましていたのだった。
3人は昨日のさりさりの残りでスープを作り、セイゲンさんのパンと一緒に食べた。
ぱっぱっぷすはセイゲンさんのパンをとても気に入って、もっとくれ!と、ひとりで5つも食べてしまった。
こんなうめえパンはじめて食ったぞ!ニクラ、作り方を教えてくれ!!
ニクラはセイゲンさんの家の裏庭に色とりどりのタイルでできたとてもすてきな焼きがまがあって、そこでいつもパンを焼いてるんだ。と、教えてあげた。
そうかあ、セイゲンサンはおれにパンの作り方を教えてくれるかなあ?!
キラが言った。
うん、セイゲンさんはきっと教えてくれるわ!とっても優しいおじいさんなんだから!
そうか!楽しみだなぁ!
と、ぱっぱっぷすは喜んで言った。
朝食を食べ終えてから3人はテントを片付けて、それからニクラは地面に穴をほってさりさりの骨などの生ゴミを捨てようとすると、ぱっぱっぷすが、
おい、ニクラ!なにしてんだよぅ!
と、言ってニクラを止めた。
さりさりの頑丈な骨は乾かすと弓矢や吹矢に使えるのだった。
ニクラはいろんなことを知ってるぱっぱっぷすに感心した。
ニクラとキラはさりさりをたくさん食べたおかげか、あやかしのせいで濃いモヤのかかったような頭もすっきりして、もうすっかり元気になっていた。
セイゲンさんの家を出発して10日が経っていた。
たったの10日だけど、もうニクラとキラにとっては1年も旅をしてるような気分だった。
たくさんの危険で不思議な出来事があったけど、今、3人で朝食を食べておしゃべりをしていられることがとても幸せだった。
3人は片付けを終えると出発した。ポルコも健康で元気だった。
ポルコにとっては、あやかしなどなんでも無かったようだった。
ニクラはぱっぱっぷすに教わって、さりさりの骨で矢じりを作った。
さりさりの骨は硬くて頑丈だけど、加工のしやすい素材だった。
矢はしなやかな弾力のあるエムという木を削って作る。羽はハヤブサのものが一番よいらしいけど、手に入らなかったので落ちていたカロという灰色の鳥の羽を使った。
ニクラはさっそくぱっぱっぷすの弓を借りて、出来上がった矢を放ってみた。
狙ったところに正確に打ち込むのは難しかったけど、練習するとウサギくらいの大きさの的なら命中するようになった。
ぱっぱっぷすは道に落ちてる小さなどんぐりにも命中させることができた。
キラは、はじめてなのに上手でどんぐりのすぐ近くに射ることができた。
こんどはキラのほうが上手だなぁ!ニクラはへたっぴだ!!
と、ぱっぱっぷすが笑いながら言った。
そういいながら、ぱっぱっぷすは弓矢を構えると、空に向けた。ぱっぱっぷすはそのまま口の中で、
ぱこんっ!!と、破裂音のような大きな音を鳴らした。
すると、道の前にある大きな木から驚いた鳥たちがバタバタと数羽飛び立った。
その瞬間、ぱっぱっぷすは素早く弓矢を引き放ち、空中の鳥を射抜いた。
鳥はそのまま地面へ落ちて、ぱっぱっぷすは馬車から飛び降りて拾いに走って行った。
戻ってきたぱっぱっぷすの手にはくちばしの赤い鳥がぶら下がってっていた。
ニクラ、道ばたのどんぐりに当たらないと、鳥は射抜けないよぅ!
と、ぱっぱっぷすは自慢気に言った。
3人は今日は弓矢で猟をしてお昼ごはんを獲ることにに決めた。
ぱっぱっぷすはエムの木を使って素早くふたつの弓を作ってくれた。
ポルコを止めて、3人は森の中へ入った。
この辺りはベリーが群生していて歩きながら摘まんで食べたり、袋に入れた。
ぱっぱっぷすはどの方向に生き物がいるか、なんとなくわかるようで、ふたりを先導して歩いた。
途中、深い藪があって、ぱっぱっぷすはそのあたりにベリーのまじった大きなフンが落ちているのを見つけた。
ぱっぱっぷすは小さな声でふたりに言った。
おい、かみつきがいるぞ。。
ニクラとキラはかみつきと聞くと、緊張した。
かみつきというのは、この地方に生息する大型の猛獣だった。
ベリーなどの木の実を主食にしている草食動物だけど、とても獰猛で近くにいる生き物を襲うことがあった。
かみつきは木の幹も食べるため、あごの力が異様に強くその歯もとても頑丈でどんな硬いものでも噛み潰したり、噛みちぎったりできた。
熊のように大きな身体だが、顔はいのししや豚に似ていて、真っ黒い毛で全身を覆われていて、とても速く動いた。
数年に一度、かみつきが町に迷い込んでしまうことがあった。かみつきは赤ん坊を生むと、鼻が異常に敏感になり、赤ん坊を守るために他の生き物を自分のテリトリーから排除しようとする。そして、町から風に乗って流れてくる人間の匂いを嗅ぎつけて、町まで迷い込んで来てしまうのだ。そうゆうときはみんな家の戸を締め切って、町の自衛団や警察が銃で始末した。
人が襲われて、手首を噛みちぎられたり、殺されたりする事件もあった。
だが、その肉はたいへんおいしくて、かみつきを退治した夜はきまって町の人たちにその肉が振舞われた。
ニクラはぱっぱっぷすとキラに、かみつきは危ない。戻って違う道を探そう。と、言った。
キラも賛成した。
ぱっぱっぷすはかみつきの肉を食べたそうだったけど、しぶしぶ賛成した。
3人は来たほうに引き返して行った。
ポルコが待ってる道に着くと、ぱっぱっぷすが大きな声で言った。
ちぇ!なにも獲れなかったなぁ!!もうちょっと先の、こんどは反対側の森に入ろうよぅ!!
うん、かみつきがいたから仕方ないわ。他のところで狩りをしましょう。
と、キラが答えた。
3人は馬車に乗り込み出発した。