キラとニクラの大冒険 (31)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/10/23 10:40:44
ニクラ!おい!ニクラ!!!
遠くのほうで、かすかに声が聞こえた気がした。
おい!目を覚ませ!!ニクラ!!キラ!!!
また声が聞こえると、ぐわりぐわりと身体が大きく揺さぶられて、顔に水をぶっかけられた。
ニクラはやっと目を覚ますと、ぼんやりとした視界の中にぱっぱっぷすの顔が見えた。
ぱっぱっぷす。。。
ニクラはよくわからずに力無く言った。
おい!ニクラ、何があったんだ?!
ぱっぱっぷすが大きな声で言ったけど、それでもまだニクラはぼぅっとしていた。
ぱっぱっぷすはニクラに聞くのをあきらめて、今度はキラを同じ方法で起こした。
もっとも、水のかけかたはもっと優しかった。
おい!キラ!!なにがあった?!
しかし、キラもぼんやりとぱっぱっぷすの顔を見て、なにがなんだかわかっていないようだった。
しょうがねえなあ、おまえら!!
これを食え!!
ぱっぱっぷすはふたりにとかげの丸焼きを渡した。
何度ふたりを起こそうとしても、ふたりとも死んでないはずなのに全然起きないから、その間にとかげを捕まえて、起きたときにふたりがすぐに食べられるように焼いておいたのだ。
自分のぶんはすでに食べてしまっていた。
ニクラとキラは言われるがままに、串刺しの焼きトカゲをゆっくりとかじった。
やっぱりぱっぱっぷすの焼き加減は上手で、とても美味しくて、口いっぱいに香ばしい香りが広がって、焼きとかげの肉がゆっくりと胃の中におさまった。
トカゲの肉はな、一番力がつくんだ!おまえら、食って早く元気になれ!!
ニクラとキラは、ゆっくりとトカゲの肉をかじりながら、少しだけ頭のモヤが晴れていった。
そしてキラがのろのろとした声で言った。
ぱっぱっぷす、ありがとう。。
ぱっぱっぷすは大丈夫なの?
おお!やっとしゃべれるようになったか!!
うん、馬車をおりて食べる物を獲りに行ったとき、珍しく鹿を見つけたんだ。あの肉はうめえからな!!それで、鹿を追いかけて行ったら、いつの間にか同じところをぐるぐるまわってて、鹿もどっかに行っちまったんだ。それから、なんだかわかんねえけど、木だの土だのがへんなふうに曲がって見えんだ!女の歌が聞こえてさ、なんか胸のあたりが苦しくなったんだ。だから、おれはあやかしに化かされてるって思って、母ちゃんに教わった通りに、土を掘って中に入ってさ、まじないをずっと唱えてたんだ。
そしたら、いつの間にか歌が聞こえなくなって、道に戻ったら、おまえらがいたってわけさ!
ぱっぱっぷすはまじないのおかげなのか、涙は出なかったようだった。
キラはなにが起こったのか自分ではよくわかってないようなので、ニクラがまだぼんやりとしている頭で、言葉をつっかえながら、ふたりになにがあったか説明した。
そうかあ、じゃあ、ニクラが金の粉をまいたから、あやかしが消えたんだな。それにしても危なかったなあ!!もうちょっとでおまえらあやかしに取り込まれていたぞ!あやかしに取り込まれたやつの魂は二度と戻って来れなくなるんだ!
おい!ニクラ!おれにも泥だんごをくれ!おれも食っておく!!
ニクラはぱっぱっぷすはもう泥だんごを食べなくても平気だろう、と思ったけど、ぱっぱっぷすに泥だんごを渡した。
ぱっぱっぷすはむしゃむしゃと一気に泥だんごを食べてから、顔をくしゃくしゃにして言った。
まっじーーーーーーなあ!!これ!!!!
ニクラとキラはその様子を見て、力無く笑った。
夕方には少し早かったけど、今日はもうここにテントを張って休むことにした。
とくにキラはぐったり疲れていたし、ニクラもやはりとても疲れていた。
ぱっぱっぷすだけが元気いっぱいで、おまえらは見とけ!!って言って、ひとりでさっさとテントを張ってしまった。
それから、おまえらは寝とけ!!と言って、張り切って夕ごはんの魚を獲りに行った。
キラもニクラも、もう本当にくたくたで身体が重く、ぱっぱっぷすの言うとおりテントに入って眠った。
しばらくして、ふたりはぱっぱっぷすの大きな声で起こされた。
おい!夕飯ができたぞぅ!!起きろ!!!!
キラとニクラは、目をこすりながらテントから出ると、ものすごく大きな魚が湯気をたてて、大きな葉っぱを何枚も重ねてできたお皿に乗っていた。
ふたりともこんなに大きな魚を見るのは生まれてはじめてだった。
キラとほとんど同じくらいの大きさの魚だった。
こ、これ、ぱっぱっぷすが獲ってきたの?
キラもニクラも驚いて聞いた。
うん!!こんな大きなさりさりはめったに獲れないぞ!今日はついてるなあっ!
あやかしに出会ってとても危険な目にあった一日だったのに、ついてるなあ。なんて言うぱっぱっぷすがおかしくて、キラとニクラは笑った。
ぱっぱっぷすはきょとんとして、なんで笑ってんだよぅ?!!と不思議がっていた。
笑ったら、ふたりともちょっと元気が出た。
さりさりという巨大な魚は、身が白くてむっちりとして、とても美味しかった。
キラもニクラもぐったりと身体が重くて食欲が無いはずだったのに、なぜかさりさりはゆっくりとだけどたくさん食べることができた。
キラもニクラもおなかいっぱい食べて、ようやくからだもリラックスしてきた。
ありがとう、ぱっぱっぷす。
とっても美味しかった!
ニクラもキラもぱっぱっぷすにお礼を言った。
ぱっぱっぷすはひとりでまだ食べ続けながら、言った。
なんだ、おまえら、もう食わないのか?
ニクラもキラもそうとうたくさん食べたけど、ぱっぱっぷすからは少食に見えるらしい。
それから3人はまたあやかしのことを話した。
ぱっぱっぷすの話では、今までにあやかしに取り込まれて行方不明になったり死体で発見されたのは昔から何人かいたらしく、ぱっぱっぷすの知ってる人では一人いたらしい。
ぱっぱっぷすの先祖がこの森に移住してきたときには、すでにあやかしが浜辺や海岸近くの森にあらわれていたらしい。
以前この森で行われた大きな戦争によって澱になったかなしみがあやかしを生み出したのだ。と、ハナ婆が言っていたそうだ。
ぱっぱっぷすの知ってる一人は、部落の中でもいちばんの力持ちで、狩や魚獲りの名手でじんぶいという名前だった。しかし、ある日、じんぶいがひとりで森に入ったとき、翌朝になっても戻ってこないので心配になった部落の男たちが探しに行ったところ、川原に放心しているように座っている彼を見つけたらしい。
男たちがまわりこんでじんぶいの顔を見ると、目はすっかり空洞になっていて、身体中がしわくちゃになって少し縮み、おかしな形にねじれていた。
そして、座ったままで死んでいたそうだ。
3人はこれからまたあやかしに会ったときのために、金色の粉のビンと黒い泥だんごをバックパックの中ではなくて、すぐ取り出せる馬車の椅子の下に隠しておくことにした。
ぱっぱっぷすが言った。
あやかしが出るってことは海が近いってことだな!
それからニクラとキラはやっぱりまだとても眠たくて、またテントに入って寝た。
ぱっぱっぷすはなぜかひとりで興奮してて、もっと話したがったけど、ふたりが寝てしまったので、しばらくひとりでぶつぶつとなにかを言ってたけど、やがてあきらめてテントに入った。