キラとニクラの大冒険 (30)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/10/22 12:24:21
そう言いながら、ニクラは素早く骨を削っていった。
ニクラはすぐに一本の白い骨のモリを作り上げた。
ぱっぱっぷすのモリよりも短くて軽かった。
かんたんに先を削ってから、木の取っ手にモリをそえた。
ナイフで軽くしるしをつけてから、そこを削って穴をあけた。
何度かモリを穴に入れながら、穴の大きさや角度を調節した。
うん、これでいいと思う!
ニクラはそう言って、馬車の上で立ち上がった。
取っ手の穴にモリの先を入れて、モリのおしりに革ヒモの輪に押し当てながら、引っ張った。
革ヒモはつっぱって、ピンと張った。
右手だけで、モリが通っている木の取っ手の穴のところとモリを一緒に持ち、道の横の土をめがけて構えた。
びゅっ、と、鋭い音がすると、地面に白いモリが突き刺さっていた。
やった!うまくいった!!
ニクラはそう言うと、馬車を飛び降りて、地面に突き刺さったモリを取りに行った。
ニクラはキラにその取っ手の使い方を教えた。
キラははじめ、うまくできなくてモリがふにゃふにゃと馬車の中に落ちたりしてたけど、何度も練習して15回目に投げたときにやっと、びゅっと音を立ててモリが地面に突き刺さった。
ニクラもぱっぱっぷすも大きな声で、キラ!やったあ!!!と、喜んだ。
ニクラはそれから、骨を削ってもっとモリを作った。
その間、キラはモリを肩に担ぐための入れ物を革を縫って作った。
ぱっぱっぷすは、途中で、夕めしを獲ってくる!!と言って馬車から飛び出すと獲物を獲るために道の横の森の中へ入って行った。
ニクラがモリを5本削り終わったとき、キラも革の入れ物を縫い終えた。
ふたりともうまく作れたので嬉しかった。
しばらくしてもぱっぱっぷすが戻って来ないので、大きな声でぱっぱっぷすを呼んだ。
ぱっぱっぷすは足も早いし、森に慣れてるから、馬車が進んでもすぐに合流できるだろうと思っていたけど、ふたりは少し不安になってきた。
ニクラとキラはそこで止まってぱっぱっぷすを待つことにした。
でも、しばらく待ってもぱっぱっぷすは戻って来なかった。
ニクラとキラは大きな声でぱっぱっぷすを呼んだり、ニクラがふくろうの鳴き真似をしたりしてぱっぱっぷすに合図を送ったけど、川の水の音が聞こえるだけで、ぱっぱっぷすの返事は無かった。
ふたりはぱっぱっぷすが馬車を降りたあたりまでゆっくり戻ってみることにした。
たしか道の両側に大きな木がひとつづつ生えていたあたりでぱっぱっぷすが飛び降りたはずだった。
大きな声でぱっぱっぷすを呼びながら、ふたりは道を戻って行った。
でも、そろそろぱっぱっぷすが飛び降りた場所に着くはずなのに、いっこうに大きな木は見えなかった。
ニクラが、もうそろそろこのあたりのはずだよ。と、言ったとき、キラが気づいた。
ニクラ、まわりの木を見て!なにかおかしいわ。
道のまわりの木をよく見ると、木の形がとてもゆっくり動きながら変化していた。
そして、木や馬車やニクラやキラの影も奇妙にぐにゃりとひしゃげて、いろんな方向を向いていた。
空を見ると、青く晴れて、いつも通りの太陽があった。
気味が悪くなったふたりはそこで馬車を止めることにした。
このまま進むのは危ないかもしれないと思ったのだ。
すると、森の中から、なにか声が聞こえてきた。
ぱっぱっぷすの声かと思って耳をすましたけど、それは女の子が歌う歌声だった。
かなしげな歌声は洞窟の中で歌っているように空中に響き渡り、じょじょにその響きは大きくなっていった。
やがて、まるであたりの木々たちがみんな歌っているかのように、歌声は幾重にも共鳴してニクラとキラを包み込んだ。
木々の動きも大きくなり、ぐにゃぐにゃとゆらめいている。
ふたりは怖さのあまりにお互いの手を握った。
その歌声を聞いていると、身体の中が冷えて、どんどん悲しい気持ちになっていくようだった。
いつの間にかキラの目から涙がこぼれ出した。
ニクラ、、わたしどうしようもなく悲しいの。
ニクラはキラの目からどんどん流れ出る涙を見た。
キラの目がいつもと違う青色になっていた。
涙が流れるたびに、キラの目の色が薄くなっていく。
まるで、キラの目が流れ出てしまっているかのようだった。
ニクラは自分も泣きそうになっていたけれど、必死になってその気持ちを押しとどめた。
ゆらゆらとうごめくあたりの木々を見ながら、ニクラはハナ婆の言ってたことを思いだした。
キラ!!これがあやかしだ!!!
ニクラはキラの肩を強く掴んで言った。
でも、キラには、もうすでにニクラの声が聞こえていなかった。
キラは馬車の上に力無く座り込んで、腕はだらんと両脇に垂れていた。
キラの身体の中は歌声でいっぱいになっていた。
でも、ニクラの頭の中には歌声が渦潮のように満ちてきて、バックパックのどこにしまったか、全然思い出せなかった。
ニクラは必死になって探した。
しかし、ニクラの目から、ぽとりと一粒涙が落ちてしまった。
目から次々に涙が流れていくのがわかったけれど、ニクラはそれでも涙でゆがんだ視界の中、無我夢中で探して、やっとのことで金色の粉と黒い泥だんごを見つけ出した。
ニクラはビンを開けて、中の金色の粉をキラと自分の身体にふりかけて、ポルコや馬車やそのまわりにもまき散らした。
それから、すぐに自分の口に黒い泥だんごを入れながら、もう片方の手でキラの口に泥だんごを入れようとした。しかし、キラの口は固く閉じて強くこわばっていた。ニクラは口の中の泥だんごを飲み下しながら、キラの口を両手で無理やりにこじ開けて、泥だんごを押し込んで強引に水で流し込んだ。
自分も水を飲んでものすごくにがい泥だんごを飲み込んだ。
しかし、涙は止まらなくて、もうほとんど隣にいるはずのキラの顔も見えなくなってきた。
身体中に歌声が満ちあふれて、ニクラはもうなにもわからなくなってしまった。
ニクラ!おい!ニクラ!!!
遠くのほうで、かすかに声が聞こえた気がした。