キラとニクラの大冒険 (29)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/10/21 08:18:24
その日はとてもいい天気で、ポルコはのんびりと坂道を下っていた。
足はすっかりよくなったようだった。
海はあと1週間くらいかかるんじゃないかな?
ニクラが言った。
それからニクラとキラはぱっぱっぷすに、100年前の海難事故のこと、7つの頭を持つ蛇のこと、イランという宝物のこと、50年前にイランを探しに行った若者のことなどを話してあげた。
ぱっぱっぷすは興奮して言った。
なんだよ、それよぅ!わくわくすんなぁ!!!
ハナ婆も言ってたその7つの頭を持つ蛇っていうのは、今もいんのか??!
ううん、ぼくらの町の人たちはそれから誰も海へ行った人がいないから、今もいるのか、わからないんだ。
ぱっぱっぷすは、とても興味を持って、たくさん聞きたがった。
ふたりは知ってることを全部話した。
そんなことを話しながら馬車に乗っていると、いつのまにかお昼をすぎていた。
ニクラがふたりに言った。
今日のお昼は魚を釣らない?
帰り道のことも考えると、そろそろ食べ物を節約したほうがいいと思うんだ。
近くには、また川が流れていた。
今度の川は道から少し離れていて、音だけが聞こえていた。
それに、じっさいにぱっぱっぷすがひとり増えたから、本当に食べ物のことを心配しなくてはいけなかった。
すると、ぱっぱっぷすが言った。
ツラナイってなんだ?
ニクラは釣りっていうのは、魚を獲ることだよ、と、ぱっぱっぷすに教えてあげた。
なんだ、魚獲りか!!
まかしとけ!!
3人はポルコを止めて、道から藪に入って、川まで歩いた。
藪の中を少し下ると、すぐに川はあった。
ふうせんばくだんの洞窟に続いていた川よりだいぶ大きくて、水量も豊富だった。
ニクラが手頃な木の枝を3本拾って、みんなのぶんの釣り竿を用意していると、ぱっぱっぷすが言った。
ニクラ、なにしてんだ?魚獲らないのか?
うん、釣りの準備をしてるんだよ。
すると、ぱっぱっぷすは川の真ん中にある岩に飛び乗って言った。
そうか!よくわかんねえけど、おれはもう獲るぞ!!
ぱっぱっぷすはモリを構えると、素早く水中へモリを放った。
すぱんっ、と、小気味良く水面が弾ける音がして、ぱっぱっぷすはすぐにモリを引き上げると、大きな川魚がモリの先端に刺さって暴れていた。
ニクラとキラはぱっぱっぷすがあまりに見事に魚を獲るので、釣りの準備も忘れて見入ってしまった。
ぱっぱっぷす、すごいなあ!
ニクラは嬉しくなって言った。
すごいわ!!ぱっぱっぷす!
キラも言った。
ぱっぱっぷすはやっぱり照れながら、言った。
うん、魚獲りもとうちゃんが教えてくれたんだ。
ニクラとキラは釣りをやめて、ぱっぱっぷすにモリの使い方を教わることにした。
ぱっぱっぷすは言った。
まず、モリの構えかたがだいじなんだ。
ふたりはぱっぱっぷすの言うとおり練習した。
魚のいる位置によって、モリを肩か耳の上に当てて、狙いを定める。
モリは人差し指と親指で軽く握る。
モリを投げるときには少しのコツがあって、ただ投げるのでは無く、一瞬のスナップで手首と指を柔らかく使わないと、鋭く放つことはできなかった。
また、狙う魚の動きを読んでモリを放つことも大事だった。
ぱっぱっぷすは魚が突然身を翻して方向転換する動きまでも読むことが出来た。
ニクラはすぐにそのコツを覚えて、何度か練習すると、5回に1回くらい魚を獲ることができるようになった。
キラはなかなかうまくできなくて、ぱっぱっぷすは遠慮なく、キラはヘタだなー!と、言った。
それでも、キラはめげずにがんばって練習したけど、その日のお昼は一匹も獲ることができなかった。
ぱっぱっぷすは口ではキラをバカにしながらも、根気つよく何度もキラに教えた。
ぱっぱっぷすは15匹、ニクラは4匹獲って、みんなでそれを焼いて食べた。
ニクラは何匹か干物にして取っておこうか、と言ったけど、ぱっぱっぷすは、食べ物なんていくらでも獲れるから、心配すんなよぉ!と、言って、全部食べてしまった。
じっさいにぱっぱっぷすは獣や魚をいくらでも獲ることができたし、野草やきのこなどを見つけるのも名人だった。
次の日のお昼も、キラが、今日もお魚を獲りましょう!と言い出して、また川で魚を獲ることになった。
キラは何度も何度もモリを投げたけど、どうしてもぱっぱっぷすやニクラのように水面にすぱっとモリが入るようには投げられなかった。
ニクラは昨日よりもずっと上手になって、ぱっぱっぷすと同じくらい魚を獲った。
モリを鋭く放つためには、手首と指先の力が必要だった。
ぱっぱっぷすとニクラは、ふたりともその力が大人のように強かった。
でも、キラはその力がまだまだ弱く、女の子の力では、そのモリを投げることは難しかった。
ニクラはキラの投げ方を見て、そのことがわかった。
キラはその日のお昼もやっぱり魚を獲れなかった。
ぱっぱっぷすは、どうしてだろうなあ?と、残念がった。
お昼を食べ終えて、馬車に戻って、出発した。
今日もいい天気で、ポルコはぽこぽこと足音を立てながら進んだ。
ニクラはポルコのハーネスが壊れたときの補修用として何本か持ってきた革ヒモを取り出した。
革ヒモをちょうど良い長さに切って、それから、木を削って小ぶりの鹿のツノのような形の取っ手を作った。
キラとぱっぱっぷすは、ニクラが面白いことをはじめたと思って、わくわくしながら、何も言わないでそれを見ていた。
木の取っ手に革ヒモを二重にくくりつけて、片側を切って取っ手にきつく結びつけた。
左手で取っ手を持ち、右手で輪になった革ヒモを持って水をかけながらひっぱった。
何度か引っ張ると、革ヒモが引き締まって取っ手にがっちりと固定された。
ニクラは満足そうにふたりにほほえむと、ぱっぱっぷすが持ってきた動物の太くて長い足の骨をもらって、ナタで縦に割って、削りはじめた。
そこで、ぱっぱっぷすはがまんができなくなって、ニクラに言った。
おい、ニクラ!おまえ、キラのモリを作ってるんだろ?!!
ニクラは言った。
そうだよ!
キラにはぱっぱっぷすのモリが重すぎるんだ。