キラとニクラの大冒険 (28)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/10/20 09:33:07
4人は朝食をお腹いっぱい食べた。
ベリーのハチミツ入りのジャムはとても美味しかった。
食べ終わったあとは、ニクラとキラがてきぱきと片付けた。
おまえたちはよく働くねえ!!!
うちの子になるかい??!!!
役に立ちそうだ!!
と、ハナ婆は食後のパイプを盛大にもくもくとふかしながら、大きな声で言った。
うん、とっても嬉しいわ。ハナおばあちゃんと暮らしたら楽しそうだもの!
でも、わたしたちは旅の途中なの。
と、キラが言うと、ニクラも言った。
うん、海へイランを探しに行くんだ。
そうかい!!!!そいつは面白そうだ!!
じゃあ、海から戻ったら、いつでもあそびにおいで!!
海へ行くなら気をつけな!
あやかしがでるよ!
ニクラは聞いた。
あやかしって、7つの頭を持つ蛇のこと?
いいや、そいつも危険な魔物だけど、7つ頭の蛇は海の中にいるのさ!あやかしは浜辺や海の近くの森の中にいて、まぼろしを見せるんだよ!!
だから、森の中で迷って出れなくなって死んじまうのさ!
あやかしは姿が見えない霧のようなやつさ!あやかしに会ったら、そこらじゅうにこれをまきな!
それから、もしあやかしにとりつかれちまったら、このだんごを食わせな!無理やりにでも食わせるんだ!!
ハナ婆はそう言うと、ビンに入った金色の粉と黒い泥だんごをくれた。
これはコウモリの糞を粉にしてまじないをかけたものだ!
コウモリはまぼろしを振り払う生き物さ!!!泥だんごにはわたしのまじないがかかってる!!
地中深くから取った粘土には星の力が宿るんだ!!!
多少まずいけど、これを食えば死にはしないから安心しな!!!!!
ぱっぱっぷす!おまえはどうするんだい??!!!!
ここに残って、わたしの手伝いをするかい??!!!
ぱっぱっぷすは少し考えてから言った。
うーん、おれはニクラとキラについて行くことにするよ。
帰ってきてから、ハナ婆の手伝いをする。
ニクラ、キラ、おれも一緒に行ってもいいか?
ニクラは言った。
もちろんだよ!ぱっぱっぷすが来てくれたら百人力だ!!
キラも言った。
うん!ぱっぱっぷすが来てくれたら心強いわ!
ぱっぱっぷすは嬉しそうに言った。
へへ、おれも海に行くぞ!!
そこで、ニクラが気がついて言った。
そうすると、すばるからくりがもう一つあるといいけどなあ。
すばるからくりってなんだ?
ぱっぱっぷすが聞いた。
水の中を泳ぐ乗り物なんだ。すばるって木で作るんだよ。
すると、ぱっぱっぷすは言った。
おれ、泳ぐの得意だから平気さ。
乗り物はいらないよ。
すると、ハナ婆も言った。
ぱっぱっぷすにすばるからくりがなつくかね?!
時間はかかるかも知れないがひとつ作ってみるといい!!
すばるからくりが無ければ、お前など蛇に一飲みにされちまうよ!!!
キラは聞いた。
ハナおばあちゃんはすばるからくりを知ってるの?
ああ、わたしがこどものころ、よくすばるからくりを作って海で遊んだもんさ!!だけど、100年前に7つの頭の蛇が出るようになってから、ほとんどだれも乗るものはいなくなっちまった!!!!
ニクラが驚いて聞いた。
ハナおばあちゃんは100年前に生きてたの?!
そうさ!!わたしたちの部族は自分の年を数えないけど、わたしは100歳をこえてるよ!!!呪術師は長生きなのさ!!!
140年くらいは生きてるんじゃないかい???!!!!
ハナ婆のひいひいおじいさんたちは、もともと北の森に暮らしており、その昔はよくすばるからくりを使って海や湖で魚を獲っていたそうだ。
それで、ぱっぱっぷすは自分のすばるからくりを作ることにした。
幸い、この森から少し南へ行ったところにある小さな山にもすばるが生えているらしい。
ニクラとキラも手伝って、朽ちたすばるをひとつ拾ってきた。
ぱっぱっぷすは力が強いので彫るのが早かった。でも、その木の持つくせに合わせて彫るのが下手で、ハナ婆に何度も怒られた。
できるだけぱっぱっぷすがひとりですばるからくりを完成させた方がぱっぱっぷすに慣れるので、ニクラとキラは魔物に壊された馬車を直したり、逃げるときに投げ捨てたテントとすばるからくりを回収したり、ぱっぱっぷすの家の残骸から家財道具を運んだり、ハナ婆の手伝いをしてすごした。
ハナ婆はとかげや蛇の捕まえ方や料理方法、具合が悪くなったときに効く木の実のことや、呪いをはね返すまじないのことなんかを教えてくれた。
それから、とかげや蛇の燻製や木の実や薬草を保存しておくための大きなガラス瓶をいくつかくれた。秘密の手法で作られた特別なガラス瓶で、とても軽くて頑丈で、緑色のもの、赤色のもの、青色のもの、それぞれとても美しくて、太陽の光でキラキラと輝いた。
ぱっぱっぷすが掘り終わったすばるは、頭でっかちのこどものような奇妙な形になった。
ぱっぱっぷすは、こすもすと名付けた。赤ちゃんが生まれたときによい人生を歩めるようにと願いを込める古くから伝わるまじないの言葉だった。
ぱっぱっぷすはそのあと、何日かかけてヤスリがけをして、それからボロ布でこすもすを磨いた。
驚いたことにこすもすは磨いている途中からぴちぴちと魚のように動きはじめていた。
通常、すばるからくりは水に入れないと動かない。
ぱっぱっぷすは、おい!動くな!と、こすもすを押さえつけながら、磨いた。
ニクラとキラもこすもすを押さえるのを手伝った。
やがて、ツルツルに磨かれたこすもすは、もっとせわしなく動くようになって、ますますぱっぱっぷすの言うことを聞かなくなり、しまいにはバタバタと暴れ出した。
ハナ婆はこすもすを大きな手でむんずと捕まえると、まじないをとなえながら、こすもすの体にばしゃばしゃとお酒をかけた。
こすもすはハナ婆の手のしたでしばらく酒のしずくを撒き散らしながら暴れていたが、やがておとなしくなった。
酔っ払ったのさ!!!!
昔もたまにこうゆうすばるからくりがいたんだ!!暴れたときは酒をぶっかけるに限るさ!!
それからハナ婆は、長めの黒い布を持ってきて、布の両はしを持つと、こすもすの体を強くゆっくりとしごき始めた。
このすばるは、木目の流れが混乱してるのさ!ぱっぱっぷすが扱うにはまだ早い!!わたしが木目の流れを直すから見てな!!!!
ぎゅうぎゅうと力強くこすもすの体をこすりながら、猛獣をなだめるようなまじないをかける。
なんどか、それをくりかえすと、こすもすの木目の流れが少しづつなめらかになってきた。
そら!もうすぐだよ!!!!
もう少し続けると、ハナ婆はこすもすを裏返して、また同じことを繰り返した。
夕方になって、ようやくこすもすのすべての木目はちょうど良くつながって、自然に流れるようになった。
こすもすはのびのびと気持ちよさそうに作業台の上に寝そべっていた。
こすもすは少し形が変わって、子どもの頭の部分が一回り小さくなって、体の部分も少しスマートになった。
ようし、これでいいよ!!!!
ハナ婆は、ぱっぱっぷすに言った。
ぱっぱっぷすのこすもすが完成したので、次の日の朝に海へ出発することにした。
その日の夜は、出発の祝杯だ!と言ってハナ婆とぱっぱっぷすはたらふくお酒を飲んだ。ニクラとキラも、ほんのちょっぴりだけ飲んだ。
翌朝、ハナ婆に見送られて、3人は出発した。
ハナ婆は大きな声で言った。
おまえたち!死ぬんじゃないよ!!!!
また帰っておいで!!!!!
3人は何度も振り返ってハナ婆に手を降った。