キラとニクラの大冒険 (27)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/10/17 10:51:01
老婆は、草をはんでいるポルコのおなかにそっと手のひらを当てて、じょじょにその手を強く押し当てていった。
ニクラとキラがそのままポルコのおなかの中に老婆の手が入ってしまうんじゃないだろうか、と思うほど、老婆は強く手のひらを押し当てた。
老婆はさらに強く手のひらでポルコのおなかをぐんっと押した。
すると、老婆の手は本当に一瞬ポルコのおなかの中に入ったように見えた。
ポルコは何も言わずに草をはんでいた。
老婆は素早く手を引くと、手の中には、さっきぱっぱっぷすの口から飛び出したのよりもう少し大きな黒い幼虫が握られていた。
老婆はまた素早く幼虫を口に放り込んで食べてしまってから、ふたりに言った。
馬は口から吐き出すのが難しいんだ。直接はらから取ってやったほうが早いのさ。さっき30こも薬を飲ませたからもう大丈夫だ。
ぼうず、棚の上にカゴに入った毒蛇がいるからそれを持ってきな!おじょうちゃんは、包帯とビンに入った練り薬を台所から持ってきな!白いやつだよ!早くしな!
ニクラとキラは走って家に入り、言われたもの探して急いで持ってきた。
老婆はポルコのケガをしてる後ろ足をつかんで言った。
ちょっと痛いよ。
老婆がポルコの足をぐんっ、とひっぱると、ポルコの足はゴクンッ!と音を立てて、ポルコはぶるるっと鳴いた。
それから、老婆はカゴからまだら模様の赤茶色の小さな毒蛇を取り出して、ポルコの足に噛ませて言った。
麻酔だよ。
それから、腰のポケットからナイフを出すと、ポルコのふくらはぎの皮を素早くたてに切り裂いた。
老婆は皮の中に手を入れて、骨や筋肉をつかんで動かした。
老婆の黒目がきょろきょろと忙しくいろんな方向に動いている。
それから、ビンの白い練り薬をたっぷりと手のひらにのせて筋肉や骨にじかに塗りつけた。
そして、もう一つのポケットから針と糸を出して、素早く皮を縫ってとじた。
上からもう一度白い練り薬を塗りつけてしばらくこすってから手を離すと、魔法のようにナイフで開いた傷口も縫った跡も無くなっていた。
老婆はぽんっ、とポルコのふくらはぎを軽く叩いて言った。
終わりだよ!
この馬は強いねえ!鳴き声ひとつあげやしなかった!
顔や身体の傷はおまえたちがこれを塗っておやり。すぐに治るよ!
老婆はそう言って、キラに白い練り薬の入ったビンを渡すと、さっさと家の中へ戻っていった。
キラとニクラはポルコの身体中にできた細かい切り傷のひとつひとつに丁寧に塗り薬を塗っていった。
時間をかけて全部の傷に塗り薬を塗り終えると、ふたりとももう立っていられないほどに疲れていた。
老婆の家に戻ると、老婆は料理を用意してくれていた。
床に敷かれた麻の敷物の上に色とりどりでいろんな形をした食器に見たことのない料理が山盛りになっていた。
とかげの丸焼きやヘビの揚げ物、奇妙な形の魚を焼いたもの、しずくのような形をした葉っぱのサラダ、豚の丸焼き、じゃがいもの茹でたの、ピンク色の花びらの酢漬け、紫色のアイスクリームなど、見たことのない料理ばかりで、いつの間に作ったのかもうもうと湯気を上げていた。
お前たちにはこれだよ!全部お食べ!!
ニクラとキラは、いただきます!と言って、食べると、全部の料理がとても美味しくてたくさん食べた。すると、食べ物の匂いで目を覚ましたぱっぱっぷすが、おれも食べる!と言って、ものすごい勢いで食べ始めた。
3人はおなかいっぱい食べて、全部の料理をたいらげた。
老婆は大声で笑いながら言った。
はーーーーっはっはっは!!!!
うまかったかい??!!!
もう大丈夫だ!!明日の朝まで寝な!!!!!
キラはすごく眠かったけど、我慢しながら老婆に聞いた。
おばあさま、ぱっぱっぷすとポルコを治してくれてありがとう。
とても美味しいお料理もありがとう。おばあさまのお名前はなんとおっしゃるの?
はーっはっは!!!上品なおじょうちゃんだ!!おばあさまのお名前は、ドリュフバッハ. ルードリッヒ. ゲルバ. スタイン. バルポッツェン. ハナ. ペッツハルトさ!!!!!
呪術師の名前は長ければ長いほどいいんだ!!!!!
みんなはめくらと呼んでいたよ!!
キラは言った。
ありがとう。わたしはキラです。おばあさまのことハナおばあちゃんって呼んでもいい?
はっはーーーーーー!!!!!!
7番目の名前で呼ばれるのははじめてさ!!
ハナってのはいいね!!!
老婆は嬉しそうに笑った。
キラとニクラとぱっぱっぷすは、それからぐっすりと眠った。
外ではポルコもバルバルの木のしたにうずくまって寝ていた。
次の日の朝、ぱっぱっぷすは目を覚ますと、身体中がすっきりと気持ちよく、どこも痛いところは無くなっていた。
ニクラとキラはよっぽど疲れているのか、まだ寝ていた。
老婆は家にいなくて、ぱっぱっぷすは外に出てみた。
外にも老婆の姿は見えず、ポルコがのんびりと草をはんでいた。
ポルコももうすっかり元気そうだった。
ぱっぱっぷすはポルコの首に手を当ててみた。
ポルコはぱっぱっぷすの手がくすぐったそうにぶるるっといなないて少し身を揺すった。
ぱっぱっぷすは家の中に戻り、寝ているニクラとキラを見た。
ぱっぱっぷすは自分と少し違う色のふたりのこどもを不思議そうにながめた。
ふたりは自分たちが死んでしまうかも知れないのに、会ったばかりの違う部族の自分を助けたのだ。
あのとき、ぱっぱっぷすはふたりに強く、邪魔をするな、と言った。もし、自分だったら自分の命を守るために一目散に逃げただろう。
それが当然のことだ。
だけど、この二人はおれを助けた。
今、ぱっぱっぷすのおなかの中にぱっぱっぷすにはあまり馴染みのない形をしたものがあった。
ぱっぱっぷすの一族には、親切や感謝という言葉が無かった。
みんなで食べ物を分けたり、手伝い合うことが当たり前だったから、そのような言葉が発達しなかったのだ。
今、ぱっぱっぷすのおなかの中にあるものは、親切や感謝という言葉に近い感情だった。
ぱっぱっぷす、起きたかい?!!
朝食を手伝いな!!!!
そういうと老婆は背中に抱えた布袋から、たくさんの木の実をすり鉢にあけた。
朝早くから、木の実を摘んできたようだ。
これをすり潰すんだ!
そう言いながらぱっぱっぷすに木の棒を渡した。
老婆はいろりに火をともしてどでかい鉄のフライパンで大きなパンケーキを焼き始めた。
ぱっぱっぷすは老婆に教わりながら、ハチミツ入りのベリーのジャムを作り、そのあとに野菜のスープを鉄火で温めた。
ニクラとキラが目を覚ますころには朝食の準備ができていた。
キラはきれいに並べられた美味しそうな朝食を見て言った。
これ、ぱっぱっぷすとハナおばあちゃんが作ってくれたの?すごい!
ぱっぱっぷすは照れて、へへへ、ハナ婆と作ったんだ。と笑った。
ぱっぱっぷすも老婆のことをめくらではなく、ハナと呼ぶようになっていた。
はい、ハナ婆、マジ最強です(^-^)
ありがとうございます!
楽しんでいただけて、嬉しいです。
また気が向いたら読んでください〜(^-^)
お話がどんどん面白くなってきてます♪ゆっくりペースですが、また続きを読ませて頂きますね~